MITIS 水野通訳翻訳研究所ブログ

Mizuno Institute for Interpreting and Translation Studies

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Translationは普遍的か?

2008年03月23日 | 翻訳研究
ChestermanにInterpreting the Meaning of Translationという短い論文がある(Chesterman 2005)。最近の翻訳研究で流行のテーマのひとつ「翻訳的普遍」translation universalを迂回的に批判しようとしたもののようだ。「翻訳的普遍」については、Maria Tymoczko等による批判がある。Tymoczko (1998)の批判は、翻訳的普遍を求める研究は翻訳に関する普遍的な概念が先験的に存在するという誤った想定に基づいているというものだ。Chestermanは時代や文化によって翻訳概念の概念化は相当違うのではないか、そうした概念化はどの程度まで重なり合うのか、翻訳という概念の普遍的なプロトタイプは存在するのかを、語源学的に探ろうとする。古典ギリシャ語、ラテン語、英語の場合は基底的認知スキーマはXを向こうに運ぶというもので、このときXとともに動くagentとしてメッセンジャーが想定されている。ドイツ語、スェーデン語、チェコ語ではagentはソースの側に立ち、Xはagentから遠くに運ばれる。フランス語、イタリア語、スペイン語、ロシア語の場合はagentはXを導き、Xに先んじて移動しており、Xはagentに近づくことになる。このようにSAE(Standard Average European)諸語の間でも概念化は微妙に異なっているが、それ以外の言語では違いはさらに大きくなる。日本語の例も挙げられていて、翻訳の「翻」の基本的意味は「ひるがえす」であり「訳」は「言葉を取り替える」であり、記号論的な主要な特徴は「差異」である。通訳の「通」の基本的意味は「通る、伝達する」であり、その特徴は類似性の保存にあるとされる。
 結論的にChestermanは翻訳の普遍的概念は、それをプロトタイプとしてではなく柔軟なクラスターと考えるのであれば存在する、しかしすべての言語の「翻訳」の解釈が、インド=ヨーロッパ諸語の「翻訳」という言葉を特徴づけている「同一性の保存」を優先的に考えているわけではないと言う。
 この論文、おかしくはないか?それはあくまでも語源的意味にすぎないだろう。問題とすべきは現代の実際の語義のはずだ。Chsetermanは、Stecconi (2004)がパースに基づいて抽出した「類似性、差異、媒介」という翻訳の普遍的カテゴリーにも触れているが、むしろこちらを批判的に検討するほうがいいのではないか。