(以下、SWISSINFO.ch新聞から転載)
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2010-04-24 15:30
外国人学生の学費 値上げか
昨年11月、スイスの大学生たちが各地で集会を開き、教育の商品化に反対した。写真はローザンヌ大学でキャプション: 昨年11月、スイスの大学生たちが各地で集会を開き、教育の商品化に反対した。写真はローザンヌ大学で (Keystone)
スイスでは、ボローニャ改革以降外国人学生が急増。昨年、その数は全学生数約13万人の2割に当たる2万7000人近くに膨れ上がった。このため公費の負担も巨額になり、外国人学生の学費値上げが検討されている。
学費値上げ問題は過去何回か討議されてきたが、今年3月チューリヒ州議会で緊急課題として提示されて以来、議論に再び火がついた。
外国人学生の28%がチューリヒ州に
チューリヒ州が外国人学生の学費値上げを緊急課題と見なすのには理由がある。連邦工科大学チューリヒ校 ( ETHZ/EPFZ ) とチューリヒ大学がある同州は、スイスにおける外国人学生の28% を1州で抱えているからだ。
しかし、もしチューリヒ州が学費値上げを実践すれば、それは他州にも関わってくる。なぜなら、ある州の学生がほかの州で勉強すれば、出身州は受け入れ側の州に経費を払うというスイス特有の連邦制システムがあるからだ。
例えば、チューリヒ州出身の学生がジュラ州の大学で勉強する場合、人文学部だと1万フラン( 約87万5000円 )、理工学部だと2万4400 フラン ( 約214万円 ) をチューリヒ州がジュラ州に払う。ところが、外国人学生は年間1000フラン( 約8万7500円 ) から2340フラン( 約20万円 ) の学費を自己負担するだけで、上記の1人当たりにかかる経費は受け入れたスイスの州と国が負担している。
外国人学生にかかる経費 巨額
「2008年度、外国人学生にかかった費用から彼らが払った学費を差し引いた額、即ち州と国が負担した経費の総額は、5億6000万フラン( 約490 億円 ) に上った」とドイツ語圏の日曜新聞「NZZ・アム・ゾンターク ( NZZ am Sonntag ) 」が明らかにした。
この5億6000万フランの金額が正しいとすれば、連邦政府が大学を抱える州に外国人学生の補助金として支払う額5200万フラン( 約46億円 ) だけではまったくカバーできず、州の負担額は巨額になる。そのため、スイス大学会議 ( SUK / CUS ) は、6月に開催される会合でチューリヒ州の学費値上げを他州も揃って検討するという。
チューリヒ州のみならず、バーゼル州議会でもキリスト教民主党 ( CVP/PDC ) が外国人学生の学費値上げを提案するなど、他州の関心も高まっている。しかし昨年のヴォー州での反対運動はこの学費値上げ問題の困難さを見せつける。
というのも、連邦工科大学ローザンヌ校 ( ETHZ/EPFL ) は2008年にスイス人学生も含む外国人学生の学費値上げを試みた。しかし結局実行されなかった。
「学費値上げは学生や大学関係者の反対運動を引き起こし、州は後ろに引き下がざるを得なかった」
とスイス大学会議 ( SUK / CUS ) の議長補佐バレリー・クラーク氏は言う。
2009年秋に「教育の商品化」に反対したスイス各地でのデモの後、スイス学生連盟 ( VSS / UNES ) のアリンヌ・ブルキ氏は、チューリヒ州を中心にした学費の値上げは再び同じような反対デモを引き起こす可能性があると述べ
「外国人学生の学費値上げを実践すれば、外国人学生数は減少するだろう。ボローニャ改革の枠組から見ると、これは流れに逆行する行為だ。外国人学生にかかる費用は、州間ないしは市町村間の税金均等振り分け方法を使って解決すべきだ」
と提案する。
政府の学費値上げ検討委員会
一方連邦政府は、キリスト教民主党 ( CVP/PDC ) の国民議会議員ゲルハルト・プフィスター氏を会長とする、学費値上げ検討委員会を立ち上げた。同委員会は連邦工科大学チューリヒ校に、学費値上げのモデルケースの導入を6月の連邦議会で提案することにしている。その後同モデルは各州の大学に導入される予定だ。
右派政党はプフィスター氏のモデルに賛成だ。しかし右派の中でも急進民主党 ( FDP/PRD )は懐疑的で、学費値上げで外国人学生が減少した場合、ヨーロッパのほかの国から何らかの報復措置が行われる可能性が高いと懸念する。左派政党は急進民主党の意見にほぼ賛成で、基本的に教育の民主化を訴えている。
大学関係者間では、外国人学生の受け入れには全員賛成だが、学費値上げに対しては意見が分かれる。スイス大学学長会議 ( crus.ch ) の会長でバーゼル大学学長アントニオ・ロップリエノ氏は慎重で、修士課程の学生とヨーロッパ以外の学生の学費値上げには賛成すると話す。
フランス語圏では、学費値上げに対する大学関係者の反対はより明白だ。ジュネーブ大学の副学長フルキガー氏は、チューリヒ州の学費値上げは税制における最良の解決法ではなく、また
「外国人学生への投資は、良い人材を育てることで、学業終了後に彼らがスイス経済に貢献してくれるという長期的視野で考える必要がある」
と主張している。
カロル・ヴェルティ 、swissinfo.ch
( 仏語からの翻訳、里信邦子 )
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2010-04-24 15:30
外国人学生の学費 値上げか
昨年11月、スイスの大学生たちが各地で集会を開き、教育の商品化に反対した。写真はローザンヌ大学でキャプション: 昨年11月、スイスの大学生たちが各地で集会を開き、教育の商品化に反対した。写真はローザンヌ大学で (Keystone)
スイスでは、ボローニャ改革以降外国人学生が急増。昨年、その数は全学生数約13万人の2割に当たる2万7000人近くに膨れ上がった。このため公費の負担も巨額になり、外国人学生の学費値上げが検討されている。
学費値上げ問題は過去何回か討議されてきたが、今年3月チューリヒ州議会で緊急課題として提示されて以来、議論に再び火がついた。
外国人学生の28%がチューリヒ州に
チューリヒ州が外国人学生の学費値上げを緊急課題と見なすのには理由がある。連邦工科大学チューリヒ校 ( ETHZ/EPFZ ) とチューリヒ大学がある同州は、スイスにおける外国人学生の28% を1州で抱えているからだ。
しかし、もしチューリヒ州が学費値上げを実践すれば、それは他州にも関わってくる。なぜなら、ある州の学生がほかの州で勉強すれば、出身州は受け入れ側の州に経費を払うというスイス特有の連邦制システムがあるからだ。
例えば、チューリヒ州出身の学生がジュラ州の大学で勉強する場合、人文学部だと1万フラン( 約87万5000円 )、理工学部だと2万4400 フラン ( 約214万円 ) をチューリヒ州がジュラ州に払う。ところが、外国人学生は年間1000フラン( 約8万7500円 ) から2340フラン( 約20万円 ) の学費を自己負担するだけで、上記の1人当たりにかかる経費は受け入れたスイスの州と国が負担している。
外国人学生にかかる経費 巨額
「2008年度、外国人学生にかかった費用から彼らが払った学費を差し引いた額、即ち州と国が負担した経費の総額は、5億6000万フラン( 約490 億円 ) に上った」とドイツ語圏の日曜新聞「NZZ・アム・ゾンターク ( NZZ am Sonntag ) 」が明らかにした。
この5億6000万フランの金額が正しいとすれば、連邦政府が大学を抱える州に外国人学生の補助金として支払う額5200万フラン( 約46億円 ) だけではまったくカバーできず、州の負担額は巨額になる。そのため、スイス大学会議 ( SUK / CUS ) は、6月に開催される会合でチューリヒ州の学費値上げを他州も揃って検討するという。
チューリヒ州のみならず、バーゼル州議会でもキリスト教民主党 ( CVP/PDC ) が外国人学生の学費値上げを提案するなど、他州の関心も高まっている。しかし昨年のヴォー州での反対運動はこの学費値上げ問題の困難さを見せつける。
というのも、連邦工科大学ローザンヌ校 ( ETHZ/EPFL ) は2008年にスイス人学生も含む外国人学生の学費値上げを試みた。しかし結局実行されなかった。
「学費値上げは学生や大学関係者の反対運動を引き起こし、州は後ろに引き下がざるを得なかった」
とスイス大学会議 ( SUK / CUS ) の議長補佐バレリー・クラーク氏は言う。
2009年秋に「教育の商品化」に反対したスイス各地でのデモの後、スイス学生連盟 ( VSS / UNES ) のアリンヌ・ブルキ氏は、チューリヒ州を中心にした学費の値上げは再び同じような反対デモを引き起こす可能性があると述べ
「外国人学生の学費値上げを実践すれば、外国人学生数は減少するだろう。ボローニャ改革の枠組から見ると、これは流れに逆行する行為だ。外国人学生にかかる費用は、州間ないしは市町村間の税金均等振り分け方法を使って解決すべきだ」
と提案する。
政府の学費値上げ検討委員会
一方連邦政府は、キリスト教民主党 ( CVP/PDC ) の国民議会議員ゲルハルト・プフィスター氏を会長とする、学費値上げ検討委員会を立ち上げた。同委員会は連邦工科大学チューリヒ校に、学費値上げのモデルケースの導入を6月の連邦議会で提案することにしている。その後同モデルは各州の大学に導入される予定だ。
右派政党はプフィスター氏のモデルに賛成だ。しかし右派の中でも急進民主党 ( FDP/PRD )は懐疑的で、学費値上げで外国人学生が減少した場合、ヨーロッパのほかの国から何らかの報復措置が行われる可能性が高いと懸念する。左派政党は急進民主党の意見にほぼ賛成で、基本的に教育の民主化を訴えている。
大学関係者間では、外国人学生の受け入れには全員賛成だが、学費値上げに対しては意見が分かれる。スイス大学学長会議 ( crus.ch ) の会長でバーゼル大学学長アントニオ・ロップリエノ氏は慎重で、修士課程の学生とヨーロッパ以外の学生の学費値上げには賛成すると話す。
フランス語圏では、学費値上げに対する大学関係者の反対はより明白だ。ジュネーブ大学の副学長フルキガー氏は、チューリヒ州の学費値上げは税制における最良の解決法ではなく、また
「外国人学生への投資は、良い人材を育てることで、学業終了後に彼らがスイス経済に貢献してくれるという長期的視野で考える必要がある」
と主張している。
カロル・ヴェルティ 、swissinfo.ch
( 仏語からの翻訳、里信邦子 )
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