(以下、朝日新聞【山口】から転載)
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増す外国人 定着に壁 【医を創る】
2010年02月18日
写真
介護療養病棟でお年寄りの食事の世話をするフィリピン人のケインさん(右)とジョアンさん(左)=山口県下関市の昭和病院
介護現場で働く外国人が増えている。結婚や仕事で長く日本で暮らす人が就く例に加え、昨年から始まった経済連携協定(EPA)に基づくフィリピン人やインドネシア人の来日で、介護の「国際化」が注目されるようになった。母国よりも高い給料や、専門性を身につけられるのが魅力だが、定着のための条件はハードルが高い。
◇ ◇
「はい、お茶飲みまーす」
山口県下関市の昭和病院。介護療養病棟で、エステバン・ハニーさん(23)がコップのお茶をスプーンですくって一口ずつ、ベッドのお年寄りの口に運んでいた。
昨年5月、EPAに基づきフィリピンから来た。広島県内の研修施設で半年ほど、日本語や生活習慣などを学んだ後、この病院で、一緒に来日したフィリピン人2人と介護職員として働き始めた。
3人の仕事は、入院患者の介護。慢性の病気や認知症になったお年寄りのおむつ交換や食事・入浴の介助、トイレへの誘導などを任されている。母国で4年の看護師経験があるフガバン・ケインさん(24)ですら、初めてづくしの仕事内容だった。
「彼女たちは明るく謙虚で仕事も丁寧。病棟にいい風を吹き込み、介護士のレベルアップにつながっている」。3人の仕事ぶりを、職員の伊吹圭貴さんはそう評価する。
なぜ、日本に来たのか。
「一番は、お金」。3人は口をそろえる。
給料は社会保険料や税金を引くと、手取り月約11万円。日本人のフルタイム職員と同じ水準だ。フィグロア・ジョアンさん(27)は節約して給料の6割を母国の家族に送金しているという。母国でレストランを経営するのが夢だ。
金曜を除く平日の午後は日本語の勉強時間。「豆を投げて『鬼は外』と言います」。日本語で節分について教えているのは、在日フィリピン人の介護職員だ。日本人男性と結婚し、地元・下関で暮らす。病院のデイサービス施設で働きながら、週2回、日本語の授業で先生を務める。
おかげで、仕事で使う会話にはあまり困らなくなった。だが、3年後の介護福祉士の国家試験に出る専門用語を勉強するレベルには遠い。
◆難関の国家試験 不合格なら帰国
国家試験の結果が、長く日本で働けるかどうか意味を持つ。不合格なら帰国しないといけない。日本人でも約半分が不合格となる狭き門。「もっとチャンス欲しい」とジョアンさんは言う。
病院は、フィリピン人以外に、インドネシア人2人も受け入れた。EPAで外国人職員を日本に招く初期費用だけで1人当たり50万~60万円。ほかに受験に向けた勉強の準備費用もかかる。それだけ費やして病院は何を期待するのか。
「外国からの『助っ人』と報道されることが多いですが、試験に受かるかどうかは分からないし、今は労働力としては期待していない。外国人と一緒に働く将来を見越した投資です」。同病院の小西信幸主任は話す。
高齢者が今後さらに増加するのに伴い、日本人だけではまかないきれなくなった介護を、外国人が担っていく。その時に備え、宗教や生活習慣の違いへの理解や国内での手続きなど、外国人の働き手の受け入れに必要な準備を今から始めるのがねらいという。
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●高畑幸・広島国際学院大講師に聞く
中国5県でも昨年、EPAに基づく介護福祉士の候補者59人が、のべ28の介護施設・病院に来た(厚生労働省調べ)。外国人と介護を結びつけたのは何か。在日フィリピン人に詳しい高畑幸(さち)・広島国際学院大学講師に聞いた。
4年ほど前、結婚などで日本に定住しているフィリピン人女性の間でホームヘルパー2級の取得ブームが始まった。この数年で2千人以上が資格を手にしただろう。
なぜ彼女たちは介護に目を向けたのか。ホームヘルパー2級は国籍・学歴不問で、一定時間講座を受ければ資格が取れる。80年代にエンターテイナーやホステスとして来日した人の定住がすすむ中、この資格が、ホステスや工場労働に取って代わる貴重な生活手段の一つになった。
一方、政府間協定のEPAは仲介業者から手数料を取られない利点がある。ただ3年後の介護福祉士の国家試験の合格が滞在の条件。合格は非常に難しいだろう。試験対策費など施設の負担も大きい。
一連の変化は、これまであまり外国人と接点のなかった高齢者が、中身の濃いコミュニケーションが必要な介護現場で、「見せ物」ではない外国人に身近にお世話される時代になった動き。アジアの人へのまなざしも変わっていくと思う。
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■ 経済連携協定(EPA) ■
インドネシア、フィリピンと日本が結んだ協定。日本製品の関税引き下げ・撤廃など、輸入条件の緩和と引き換えに、介護福祉士と看護師の候補者を受け入れる。介護福祉士候補の滞在許可期間は4年。その間、日本で介護福祉士の国家試験に合格すれば引き続き滞在できるが、不合格なら帰国しなければならない。介護福祉士は「3年以上介護業務に従事」が受験資格の一つなので、4年間の受験機会は1度のみ。合格の難しさから定着に結びつかないという指摘もある。
◆ 取材後記 ~ 努力が報われる制度の改正必要 ◆
「褥瘡(じょくそう)」という言葉をご存じだろうか。いわゆる床ずれのことだが、フィリピン人から「最近習った言葉」として聞くまで、日本人の自分も知らなかった。「漢字が難しい。訓読み、音読みと、読み方が多い」と3人。だが、試験はわずか1回。彼女たちの努力が報われる制度の改正が必要と感じた。
(斎藤靖史)
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増す外国人 定着に壁 【医を創る】
2010年02月18日
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介護療養病棟でお年寄りの食事の世話をするフィリピン人のケインさん(右)とジョアンさん(左)=山口県下関市の昭和病院
介護現場で働く外国人が増えている。結婚や仕事で長く日本で暮らす人が就く例に加え、昨年から始まった経済連携協定(EPA)に基づくフィリピン人やインドネシア人の来日で、介護の「国際化」が注目されるようになった。母国よりも高い給料や、専門性を身につけられるのが魅力だが、定着のための条件はハードルが高い。
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「はい、お茶飲みまーす」
山口県下関市の昭和病院。介護療養病棟で、エステバン・ハニーさん(23)がコップのお茶をスプーンですくって一口ずつ、ベッドのお年寄りの口に運んでいた。
昨年5月、EPAに基づきフィリピンから来た。広島県内の研修施設で半年ほど、日本語や生活習慣などを学んだ後、この病院で、一緒に来日したフィリピン人2人と介護職員として働き始めた。
3人の仕事は、入院患者の介護。慢性の病気や認知症になったお年寄りのおむつ交換や食事・入浴の介助、トイレへの誘導などを任されている。母国で4年の看護師経験があるフガバン・ケインさん(24)ですら、初めてづくしの仕事内容だった。
「彼女たちは明るく謙虚で仕事も丁寧。病棟にいい風を吹き込み、介護士のレベルアップにつながっている」。3人の仕事ぶりを、職員の伊吹圭貴さんはそう評価する。
なぜ、日本に来たのか。
「一番は、お金」。3人は口をそろえる。
給料は社会保険料や税金を引くと、手取り月約11万円。日本人のフルタイム職員と同じ水準だ。フィグロア・ジョアンさん(27)は節約して給料の6割を母国の家族に送金しているという。母国でレストランを経営するのが夢だ。
金曜を除く平日の午後は日本語の勉強時間。「豆を投げて『鬼は外』と言います」。日本語で節分について教えているのは、在日フィリピン人の介護職員だ。日本人男性と結婚し、地元・下関で暮らす。病院のデイサービス施設で働きながら、週2回、日本語の授業で先生を務める。
おかげで、仕事で使う会話にはあまり困らなくなった。だが、3年後の介護福祉士の国家試験に出る専門用語を勉強するレベルには遠い。
◆難関の国家試験 不合格なら帰国
国家試験の結果が、長く日本で働けるかどうか意味を持つ。不合格なら帰国しないといけない。日本人でも約半分が不合格となる狭き門。「もっとチャンス欲しい」とジョアンさんは言う。
病院は、フィリピン人以外に、インドネシア人2人も受け入れた。EPAで外国人職員を日本に招く初期費用だけで1人当たり50万~60万円。ほかに受験に向けた勉強の準備費用もかかる。それだけ費やして病院は何を期待するのか。
「外国からの『助っ人』と報道されることが多いですが、試験に受かるかどうかは分からないし、今は労働力としては期待していない。外国人と一緒に働く将来を見越した投資です」。同病院の小西信幸主任は話す。
高齢者が今後さらに増加するのに伴い、日本人だけではまかないきれなくなった介護を、外国人が担っていく。その時に備え、宗教や生活習慣の違いへの理解や国内での手続きなど、外国人の働き手の受け入れに必要な準備を今から始めるのがねらいという。
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●高畑幸・広島国際学院大講師に聞く
中国5県でも昨年、EPAに基づく介護福祉士の候補者59人が、のべ28の介護施設・病院に来た(厚生労働省調べ)。外国人と介護を結びつけたのは何か。在日フィリピン人に詳しい高畑幸(さち)・広島国際学院大学講師に聞いた。
4年ほど前、結婚などで日本に定住しているフィリピン人女性の間でホームヘルパー2級の取得ブームが始まった。この数年で2千人以上が資格を手にしただろう。
なぜ彼女たちは介護に目を向けたのか。ホームヘルパー2級は国籍・学歴不問で、一定時間講座を受ければ資格が取れる。80年代にエンターテイナーやホステスとして来日した人の定住がすすむ中、この資格が、ホステスや工場労働に取って代わる貴重な生活手段の一つになった。
一方、政府間協定のEPAは仲介業者から手数料を取られない利点がある。ただ3年後の介護福祉士の国家試験の合格が滞在の条件。合格は非常に難しいだろう。試験対策費など施設の負担も大きい。
一連の変化は、これまであまり外国人と接点のなかった高齢者が、中身の濃いコミュニケーションが必要な介護現場で、「見せ物」ではない外国人に身近にお世話される時代になった動き。アジアの人へのまなざしも変わっていくと思う。
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■ 経済連携協定(EPA) ■
インドネシア、フィリピンと日本が結んだ協定。日本製品の関税引き下げ・撤廃など、輸入条件の緩和と引き換えに、介護福祉士と看護師の候補者を受け入れる。介護福祉士候補の滞在許可期間は4年。その間、日本で介護福祉士の国家試験に合格すれば引き続き滞在できるが、不合格なら帰国しなければならない。介護福祉士は「3年以上介護業務に従事」が受験資格の一つなので、4年間の受験機会は1度のみ。合格の難しさから定着に結びつかないという指摘もある。
◆ 取材後記 ~ 努力が報われる制度の改正必要 ◆
「褥瘡(じょくそう)」という言葉をご存じだろうか。いわゆる床ずれのことだが、フィリピン人から「最近習った言葉」として聞くまで、日本人の自分も知らなかった。「漢字が難しい。訓読み、音読みと、読み方が多い」と3人。だが、試験はわずか1回。彼女たちの努力が報われる制度の改正が必要と感じた。
(斎藤靖史)
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