(以下、東洋経済ONLINEから転載)
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ヤマト運輸、人手不足問題に着々と対応
山内社長「運賃適正化を強い意志で進める」
鈴木 雅幸 :メディア編集部長 2014年08月04日
――陸運業界における人手不足解消の対応策は。
陸運業界が持っている輸送能力を最大限に活用するのが1つ。そのためには、片荷(かたに、幹線輸送において積み荷が片道分しかないこと)のような無駄を極力なくすための共同プラットフォームを、業界で構築することが日本の産業を支えていくうえで求められる。もう1つはダイバーシティによって働き手を増やすための労働環境の改善だ。女性の中にも大型車両のドライバーを希望する人もいる。外国人の活用も課題だ。そのほか、モーダルシフトや機械化も方策の1つ。各社でこれらの取り組みをどう組み合わせるかだ。
1社だけで対応する時代は終わって、業界としてどう対応するかという意識を持たなければならない。例えば、輸送効率を上げるための「ボックス」も各社によってサイズが異なる。こういったものを同一規格で業界標準化を図っていくことも必要だ。また、ITインフラの業界整備も待たれる。情報システムに共有性がないと、業務の一元化はできない。全国物流ネットワーク協会など業界団体が中心となって検討する動きもみられる。
さまざまな方法で人員を確保
――ヤマト運輸での人手不足対応はいかがですか。
集配エリアにおけるセールスドライバーとターミナル拠点での仕分け作業の人員の確保が課題だ。集配エリアでは顧客に直接接する場所なので女性、特に主婦が活躍してくれている。すでに当社では集配を担当する女性が約1万3000人もいる。主婦の場合、地域の中で短時間働いて残業がないというのが働きやすい就労条件だ。今後さらに、セールスドライバーの補助的な役割を担うフィールドキャストとしても、主婦の力は期待できる。
一方、仕分け作業の希望者は短時間労働の希望が多く、フルタイム人員を確保することが難しい。また、体力を使える若者の確保が厳しいので、仕分け現場では機械化を最優先で進めている。最新の搬送機械を導入すれば、2~3割は省力化が図れる。全国に約70ある拠点に順次設備を導入していく計画だ。
それ以外の施策としては外国人の活用だ。現在、中国やアセアン諸国などから1000人超の外国人が働いており、そのための作業マニュアルも日本語を含め6カ国語対応にしている。仲間といかにコミュニケーションを図るかなど、実践的な現場作業を想定したマニュアルの内容を充実させていく。つまり、労働力の確保には全体ネットワーク(物流拠点網)の進化と合わせて、機械化や時間軸、対象者の拡大などの施策を進めている。
――消費増税前の今年3月には荷受け作業が滞り、配送に遅れが出ました。
最終週の荷量は想定を大きく上回ってしまい、輸送キャパシティが十分に確保できずに仕分け作業にもシワ寄せがきてしまった。あらかじめ想定して用意していた体制に対し、実際に扱う物量が極端に多くなり、その波動を吸収できずに混乱してしまったというのが正直なところだ。物量がピークを迎える今年12月に向けてはこのようなことが起こらないように、今からさまざまな準備作業を進めている。
――7月のお中元シーズンは無事乗り切りましたか。
問題なく乗り切ることができた。取扱数量を想定し、それに向けて春先から用意してきた成果を反映できた。お中元シーズンだけをとれば、人手不足感はない。しかし、これが12月になると、7月の波よりももう一段高くなるため、注意深く準備していく。
――人手不足に伴う労賃アップや燃油費高などによる値上げ交渉が陸運各社で行われています。ヤマト運輸ではどのようなスタンスで臨まれるのですか。
宅急便はすでに社会的インフラだ。その責任を果たすのが私どものミッション。社会的インフラには信頼性と持続性が不可欠だ。信頼性はサービス品質の持続であり、それをしっかりと提供できる環境を構築しないといけない。人の体制、車両や施設、機械化投資など、信頼を持続させるための原資を確保するため「運賃収受の適正化」をお願いしている。お客様に十分なサービス品質を提供し、われわれの責任を果たしていく。
――「運賃収受の適正化」という意味をもう少し具体的にご説明ください。
宅急便では、基本はサイズ別運賃になっているが、大口の法人顧客に対しては、小さな荷物も大きな荷物も60サイズ(3辺の長さが合計60センチメートル以内)の料金で運んでいた。60サイズの物量構成割合と売上計上比率を比べると、2倍以上の差が出ていたケースもあった。今は徐々に縮まってきている。昨年ご迷惑をかけたクール宅急便の温度管理問題の反省もあり、社会インフラとしての責任を果たさねばならないという思いから、強い意志をもって運賃収受の適正化のお願いを進めていかないといけない。
――これまで大幅な割引をしていたのはなぜですか。
荷主確保という厳しい競争条件の中では、価格提示の一本化という形がまだ残っていた。また、かつては比較的大きなサイズが少なかった。個人から企業に利用者層の幅が広がり、納品や部材を運ぶのに使われるようになった。現在は個人から純粋に出ているものは全体の10%ちょっと。8~9割は企業からの荷物だ。それに伴うサイズの大型化が起こった。
品質を社会的インフラとしてきちっと整えようとすると、キャパシティをきちっと把握しなければならない。それには人や車両、施設だけではなく、荷物のキャパシティを考えなくてはいけない。サイズ別にしっかりとカウントされる環境が必要だ。これまでの個数を意識する考え方から、サイズも意識するように転換するときが来ている。
価格改定の交渉は徐々に進んでいる
――運賃収受の適正化交渉の進捗度合いは。
中・小口顧客には半分以上は再契約をすませた。大口顧客はまだ交渉中の段階である。大口の場合はインパクトも大きいため、運賃収受の適正化の交渉も1年くらいかけて行っている。おそらく実際の改定は来春とかになるので、すべての交渉が終わるには2年ぐらいかかる。
顧客からは「うちも大変だけど、ヤマトさんも大変だよね」といった声が多く聞かれる。人手の問題、燃油費の問題を話すと比較的受けていただきやすい。これは、物流業界全体の問題であり、このタイミングで行動を起こさないと日本全体の物流が支えられなくなる。
――中小事業者からは値上げに対して抵抗の声が聞かれます。
極端にサイズと価格がそぐわない顧客に対しては、交渉の最初の頃は当社からのご説明が不十分で「(ご了承いただけないなら)これ以上はお取引が出来ません」といった趣旨の言葉も正直あって、ご迷惑をおかけした。でも今は、もう一度話をさせて頂き、再提案をさせてもらっている。
――人手不足は構造問題です。人件費は当初想定を上回ってきませんか。
今のところ年度計画の想定内で動いている。ただ、これから年末に向けて人件費が大きく変化するかもしれない。それも物流業界だけなら読めるが、建設業や外食産業、小売業などと労働力を奪い合う影響が今後広がっていくと、現状の想定とは大きく異なる様相になるかもしれない。注意深く見守っていく。
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ヤマト運輸、人手不足問題に着々と対応
山内社長「運賃適正化を強い意志で進める」
鈴木 雅幸 :メディア編集部長 2014年08月04日
――陸運業界における人手不足解消の対応策は。
陸運業界が持っている輸送能力を最大限に活用するのが1つ。そのためには、片荷(かたに、幹線輸送において積み荷が片道分しかないこと)のような無駄を極力なくすための共同プラットフォームを、業界で構築することが日本の産業を支えていくうえで求められる。もう1つはダイバーシティによって働き手を増やすための労働環境の改善だ。女性の中にも大型車両のドライバーを希望する人もいる。外国人の活用も課題だ。そのほか、モーダルシフトや機械化も方策の1つ。各社でこれらの取り組みをどう組み合わせるかだ。
1社だけで対応する時代は終わって、業界としてどう対応するかという意識を持たなければならない。例えば、輸送効率を上げるための「ボックス」も各社によってサイズが異なる。こういったものを同一規格で業界標準化を図っていくことも必要だ。また、ITインフラの業界整備も待たれる。情報システムに共有性がないと、業務の一元化はできない。全国物流ネットワーク協会など業界団体が中心となって検討する動きもみられる。
さまざまな方法で人員を確保
――ヤマト運輸での人手不足対応はいかがですか。
集配エリアにおけるセールスドライバーとターミナル拠点での仕分け作業の人員の確保が課題だ。集配エリアでは顧客に直接接する場所なので女性、特に主婦が活躍してくれている。すでに当社では集配を担当する女性が約1万3000人もいる。主婦の場合、地域の中で短時間働いて残業がないというのが働きやすい就労条件だ。今後さらに、セールスドライバーの補助的な役割を担うフィールドキャストとしても、主婦の力は期待できる。
一方、仕分け作業の希望者は短時間労働の希望が多く、フルタイム人員を確保することが難しい。また、体力を使える若者の確保が厳しいので、仕分け現場では機械化を最優先で進めている。最新の搬送機械を導入すれば、2~3割は省力化が図れる。全国に約70ある拠点に順次設備を導入していく計画だ。
それ以外の施策としては外国人の活用だ。現在、中国やアセアン諸国などから1000人超の外国人が働いており、そのための作業マニュアルも日本語を含め6カ国語対応にしている。仲間といかにコミュニケーションを図るかなど、実践的な現場作業を想定したマニュアルの内容を充実させていく。つまり、労働力の確保には全体ネットワーク(物流拠点網)の進化と合わせて、機械化や時間軸、対象者の拡大などの施策を進めている。
――消費増税前の今年3月には荷受け作業が滞り、配送に遅れが出ました。
最終週の荷量は想定を大きく上回ってしまい、輸送キャパシティが十分に確保できずに仕分け作業にもシワ寄せがきてしまった。あらかじめ想定して用意していた体制に対し、実際に扱う物量が極端に多くなり、その波動を吸収できずに混乱してしまったというのが正直なところだ。物量がピークを迎える今年12月に向けてはこのようなことが起こらないように、今からさまざまな準備作業を進めている。
――7月のお中元シーズンは無事乗り切りましたか。
問題なく乗り切ることができた。取扱数量を想定し、それに向けて春先から用意してきた成果を反映できた。お中元シーズンだけをとれば、人手不足感はない。しかし、これが12月になると、7月の波よりももう一段高くなるため、注意深く準備していく。
――人手不足に伴う労賃アップや燃油費高などによる値上げ交渉が陸運各社で行われています。ヤマト運輸ではどのようなスタンスで臨まれるのですか。
宅急便はすでに社会的インフラだ。その責任を果たすのが私どものミッション。社会的インフラには信頼性と持続性が不可欠だ。信頼性はサービス品質の持続であり、それをしっかりと提供できる環境を構築しないといけない。人の体制、車両や施設、機械化投資など、信頼を持続させるための原資を確保するため「運賃収受の適正化」をお願いしている。お客様に十分なサービス品質を提供し、われわれの責任を果たしていく。
――「運賃収受の適正化」という意味をもう少し具体的にご説明ください。
宅急便では、基本はサイズ別運賃になっているが、大口の法人顧客に対しては、小さな荷物も大きな荷物も60サイズ(3辺の長さが合計60センチメートル以内)の料金で運んでいた。60サイズの物量構成割合と売上計上比率を比べると、2倍以上の差が出ていたケースもあった。今は徐々に縮まってきている。昨年ご迷惑をかけたクール宅急便の温度管理問題の反省もあり、社会インフラとしての責任を果たさねばならないという思いから、強い意志をもって運賃収受の適正化のお願いを進めていかないといけない。
――これまで大幅な割引をしていたのはなぜですか。
荷主確保という厳しい競争条件の中では、価格提示の一本化という形がまだ残っていた。また、かつては比較的大きなサイズが少なかった。個人から企業に利用者層の幅が広がり、納品や部材を運ぶのに使われるようになった。現在は個人から純粋に出ているものは全体の10%ちょっと。8~9割は企業からの荷物だ。それに伴うサイズの大型化が起こった。
品質を社会的インフラとしてきちっと整えようとすると、キャパシティをきちっと把握しなければならない。それには人や車両、施設だけではなく、荷物のキャパシティを考えなくてはいけない。サイズ別にしっかりとカウントされる環境が必要だ。これまでの個数を意識する考え方から、サイズも意識するように転換するときが来ている。
価格改定の交渉は徐々に進んでいる
――運賃収受の適正化交渉の進捗度合いは。
中・小口顧客には半分以上は再契約をすませた。大口顧客はまだ交渉中の段階である。大口の場合はインパクトも大きいため、運賃収受の適正化の交渉も1年くらいかけて行っている。おそらく実際の改定は来春とかになるので、すべての交渉が終わるには2年ぐらいかかる。
顧客からは「うちも大変だけど、ヤマトさんも大変だよね」といった声が多く聞かれる。人手の問題、燃油費の問題を話すと比較的受けていただきやすい。これは、物流業界全体の問題であり、このタイミングで行動を起こさないと日本全体の物流が支えられなくなる。
――中小事業者からは値上げに対して抵抗の声が聞かれます。
極端にサイズと価格がそぐわない顧客に対しては、交渉の最初の頃は当社からのご説明が不十分で「(ご了承いただけないなら)これ以上はお取引が出来ません」といった趣旨の言葉も正直あって、ご迷惑をおかけした。でも今は、もう一度話をさせて頂き、再提案をさせてもらっている。
――人手不足は構造問題です。人件費は当初想定を上回ってきませんか。
今のところ年度計画の想定内で動いている。ただ、これから年末に向けて人件費が大きく変化するかもしれない。それも物流業界だけなら読めるが、建設業や外食産業、小売業などと労働力を奪い合う影響が今後広がっていくと、現状の想定とは大きく異なる様相になるかもしれない。注意深く見守っていく。
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