(以下、東京新聞から転載)
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解放がもたらす可能性
2011年8月10日
イタリア映画「人生、ここにあり!」には考えさせられた。地域で自立して暮らそうと精神障害者らが床板張りの仕事に挑み、大成功するまでの奮闘ぶりを実話を基に描いている。
驚いた。イタリアには精神科病院がない。一九七八年に法律で全廃を決め、二十年がかりで閉鎖した。精神障害者の多くは地域の就労生活協同組合で木工や陶芸、清掃などの作業をして自立の道を歩んでいる。
廃絶を唱えたのは精神科医のフランコ・バザリアだ。「どの人間にだって正気と狂気がある。だから社会は狂気も受けいれるべきだ」。そんなふうに患者の解放を訴えた。スローガンは「自由こそ治療だ!」。医学的な意味合い以上に人間回復への思いが伝わる。
さて、日本では障害者基本法が改正された。精神や身体、知的などの障害のあるなしにかかわらず、互いの違いを認め合って共生できる社会を実現するとうたった。大きな前進だ、と思ったらがっかりした。
条文のあちこちに「可能な限り」とある。好きな地域で暮らす。医療や介護を身近な場所で受ける。障害のない子と一緒に学ぶ。せっかく明記された障害者のそんな権利も完全に保障されたわけではないのだ。
映画の精神障害者らは木片を寄せ集めて芸術的な床板を作りだし、大ヒットする。日本の障害者が解放されて底力を出せば、この国は見違えるほど元気になるように思う。 (大西隆)
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解放がもたらす可能性
2011年8月10日
イタリア映画「人生、ここにあり!」には考えさせられた。地域で自立して暮らそうと精神障害者らが床板張りの仕事に挑み、大成功するまでの奮闘ぶりを実話を基に描いている。
驚いた。イタリアには精神科病院がない。一九七八年に法律で全廃を決め、二十年がかりで閉鎖した。精神障害者の多くは地域の就労生活協同組合で木工や陶芸、清掃などの作業をして自立の道を歩んでいる。
廃絶を唱えたのは精神科医のフランコ・バザリアだ。「どの人間にだって正気と狂気がある。だから社会は狂気も受けいれるべきだ」。そんなふうに患者の解放を訴えた。スローガンは「自由こそ治療だ!」。医学的な意味合い以上に人間回復への思いが伝わる。
さて、日本では障害者基本法が改正された。精神や身体、知的などの障害のあるなしにかかわらず、互いの違いを認め合って共生できる社会を実現するとうたった。大きな前進だ、と思ったらがっかりした。
条文のあちこちに「可能な限り」とある。好きな地域で暮らす。医療や介護を身近な場所で受ける。障害のない子と一緒に学ぶ。せっかく明記された障害者のそんな権利も完全に保障されたわけではないのだ。
映画の精神障害者らは木片を寄せ集めて芸術的な床板を作りだし、大ヒットする。日本の障害者が解放されて底力を出せば、この国は見違えるほど元気になるように思う。 (大西隆)