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アバンギャルドからスタンダードになる年頃

2012-02-11 12:27:30 | 音楽・アート
キースジャレットが83年に出した(録音した?)アルバムに「Standards Vol.1」というのがあります。これはキースがピアノトリオでスタンダードを演奏するというものですが,非常に高い評価を受け(実際すばらしい作品です),この後キースは現在までこのメンバーでスタンダードを演奏し作品をつくり続けてます。

最近のキースの活動しか知らない人は,このスタンダーズトリオとソロピアノの演奏が彼の活動と思っているかも知れません。83年というとキースは30代も終り…で,そこから20…いやもう30年近いわけですから,かれの音楽生活の半分がこの活動になるわけです。ところが,スタンダーズを出す前のキースは実に多彩な作品を残してます。そもそも彼を有名にしたのがチャールズロイドのグループで,フラワームーブメントの色合いを強くもつ今のバンドは楽器こそ全部アクゥースティックですが,ロックのビートやメロディの要素を多く持ってます。その後電化したてのマイルスのバンドでフリーっぽい演奏をし,その後は自身のバンド。自分のバンドはほとんどアクゥースティックですが,やっぱりロックやゴスペル,そして民族音楽の影響を強くうけたようなサウンドにフリーな構成を合わせた,彼独自の音楽…という色合いが強く,この当時のキースは,演奏能力のバツグンの高さを持ちながらも,旧来のジャズファンには異端扱いをされていた…という風に聞いてます。その分若いジャズファンにはファンが多かったんでしょうけど。

そういうキースがもっとも油が乗り切った40前後にスタンダードを演奏し,その内容もフリーとかじゃなくて,極めてメロディを丁寧に演奏するというシンプルなスタイルったわけですから,旧来のジャズファンもキースのファンもびっくりした…事だろう…と想像できます。で,双方に嫌われるかというと,多分双方に絶賛だったわけです。

この辺の話,わたしは当事者じゃないので,幾分想像が入ってます。

さて,パットメセニーですが80/81というアルバムがあります。タイトル通り80年頃の作品です。このアルバムは,アクゥースティックギターを弾くフォーク調の曲もありますが,サックスを入れたクァルテットで,若干フリー色はあるものの,いわゆるジャズを演奏してます。

で,この作品を出す以前のメセニーも,自己のグループで,シンセを使ったり,ポップなビートとかを取り入れたサウンドでいわゆるフュージョンミュージシャンと思われていたようです(インタビューで読んだことあります)。ところが80/81でジャズを演奏したところ,やっぱりこれまでまるで関心を示さなかった旧来のジャズファンが絶賛したわけです。

この二つの話。時期が近いので,そういう時期だったという気もするのですが,いずれもジャズファンがジャズじゃない…と嫌っていた音楽をやっていた,その分野での人気ものが,ジャズをやったら,ジャズファンが驚いて絶賛した…という構図になってます。なぜ絶賛したか…というと,普通にジャズしてたから…じゃなくて,やっぱりジャズでありながら,どこか新しい,つまりジャズに新しい空気をもたせそれを旧ジャズファンに分からせることができたからでしょう。

こういうことって良くあるように思います。若いときに自分の独自の表現を探して,作曲,アレンジ,編成,音色,節回し…などいろんな事で,人がやってないことを試していく。だけど,そういうのを一通りやった後に,普通に伝統的なスタイルで作品をつくると,非常に幅広い人に受け入れられる…と。そこまで探求していた独自の表現は,一部には好評でも多くの人には理解されにくい,そこで入れ物を旧来のものに変えると,旧来の人にも分かりやすくなるわけです。もちろん,それをするには,それまでに自分の独自のスタイルを確立している…ということが重要なポイントとなります。

実際オリジナリティを確立した人は,普通に普通の事をやっても独自になるわけで,敢えて独自な表現をする必要がありません。しかし,それは産まれながらに持っているものとは限らず,若い時点では,それを探求する模索も必要になるわけでしょう。それをやったからこその,オリジナリティになります。

キースとメセニー話を書きましたが,同様の試みは結構良く見ます。様々なミュージシャンが,ある程度のキャリアを積んだ後に,古い曲のカバーを歌ったり,ジャズとかに手を出したりします。それは良い作品の場合もあるし,実際聞きやすいのでヒットする場合が多いです。まぁキースとかが突出してるのは,その後,彼は30年近くそれを続けていても,尽きないほどの,オリジナリティを持っていることでしょうけど。メセニーも,今でも時々アクゥースティックジャズのアルバムを良くだしますし。

音楽以外でも,このやり方というのは,参考になると思ってます。本当にオリジナリティがある人は,普通の事をやったときにこそ,多くの人に伝わる自己表現になる。普通のことをしていてもカッコイイ…,そういうのに憧れます(^^;)。

若いときにはいろんなことを模索して,枠から外れ,もがくように,自己を拡張していく。若いときにに型にはまろう…と思うのは,自分の可能性を閉ざしてしまいます。しかしどこからかは逆に普通にやることが重要です。いい歳をしていつまでも人と違うことばかりを強調しているというのみっともないし,人に伝わりません。

わたしはそう思うし,そういう風に目指して欲しいと若い人には思います。
コメント
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