森人 もりと

森では人も生きものも ゆっくり流れる時間を生きています

湖畔道

2016-06-29 | 日記


 六月に入って、早朝から日が差したのはたぶん初めてです。嬉しいことにそれが二日も続
いています。
 山を降りて、一周十四キロの湖畔道をぶらぶら歩くことにしました。
 周遊する道はもうすっかり夏の景色で溢れていました。



 丸太を上手に使って作られた、大きく立派な案内板が立っています。
 ところが残念なことに、地図上に現在地点が示されていません。目標物も建物もまったく
ない所だから、これがないと何の役にもたちません。なるほどこの前に足を止めてる人の姿
を見たことがありません。
 前を通るたびに、赤マジックで書き込んでやろうと思うのですが、いや、待てよ、この年
になって、落書きでしょっぴかれたらいい恥さらしだ、と思い留まるのです。
 まあ、これが在ることで公園らしさを演出しているのだから、良しとしなければ。



 ちょうど半周歩くと大沼公園駅に着きます。
 
 帽子にリュック、スニーカー、手にはペットボトルを握った敬老会らしき集団が、行儀よ
く、二列に並んで通り過ぎます。そんなにしっかり装備する場所でもないのに、と思うので
すが、とにかく年寄りは用心深いのです。自分も含めて。

 中年のお忍び風カップルは、女性の方が妙に明るく楽しそうでした。
 老夫婦の想い出旅行は、側で見ていてなんともいいものです。



 だれもが水面を眺めてじっと静かでした。さまざまな想いが去来するのでしょうか。

 突然、ケイタイが鳴って、オッサンが大声を出しました。
「今 北海道 北海道 帰ったら直ぐやるから ハイハイ」
 聞くともなしに、耳に飛び込んでくるから、いきなり現実に引き戻されます。

 帰りの半周は、湖水よりも林を見ながらの道程です。人はほとんどいません。
 時折、貸自転車に乗った若者が、力強くペダルを踏んで通り過ぎます。

 大きなカーブの内側に、新しくオシャレなレストランがオープンしていて、巨大なウル
トラマン立っていました。客寄せのためなのか、あるいはオーナーがマニアなのか、まあ
どうでもいいや、と通り過ぎます。ちょっと疲れてきたのかな。



 夏至が過ぎたから、昼が短く夜が長くなります。来週はもう七月、夏本番です。
 変わりゆく季節の短い時間を味わいます。


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時間

2016-06-22 | 日記


 いつも歩いている湖畔道のカーブの辺りに、一か所だけ遠くからでもハッキリ分かる、何
か白い物を撒き散らしたような場所がありました。
 何かな、と近づいてみると、それは投げ捨てられた多数のタバコの吸い殻でした。
 どうしてこんな所に、と思いながら脇の茂みを見ると、一本の倒れそうに傾いた、しかも
樹皮が酷く削り取られた木があって、その根っこの部分にお線香、お花、缶コーヒーなどが
ギッシリ重なるように置かれているのです。
 あっ、ここで何かがあったんだ、と直ぐに分かったのですが、どうもこの景色どこかで見
た記憶があるのです。

 一週間ほど前に近くの町に住む若い人の車が、何らかの理由で車道を外れ、木に激突して
亡くなったとのニュースを思い出しました。
 ああ、ここだったんだ、と分かった瞬間に周りの空気が変わって、景色も違って見えてき
ました。



 先月のことですが、この無人駅の道を二キロ程行った所で、それはもう前後左右樹木だら
けの全く林の中なのですが、そこで若い親御さんが小四の子供をお仕置きのために、道端に
置き去りにしました。少しして戻ってみたがいないのです。そのまま夜になっても行方がわ
からなくなって、大規模な捜索が始まりました。
 この小屋の上空にも連日ヘリコプターが飛ぶものだから、爆音で窓ガラスがビリビリ震え
まるで沖縄にでもいるようでした。お巡りさんも尋ねてきて物置などを調べていきました。

 幸い男の子は無事に保護され、一件落着しましたが、日本中の人々が心配して生存を祈っ
た一週間でした。



 「一瞬で変わる人生」よく聞くありふれた言葉だけど、その一瞬を明日誰かが自分に配達
に来るのかもしれない。もう何回目かの。
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水無月

2016-06-16 | 日記


 夏至も間近の六月半ば、時折射し込む日光が懐かしく感じられます。
 
 朝晩は一桁の気温ですが、日中は二十度近くまで上がります。まだシャツ一枚とはいきま
せんが気分はもう初夏です。というのも花や虫たちが、出番を待ってましたとばかりに、次
々に登場してくるからです。







 いつも買い出しに行く野菜の直売所に、ゼラニウムが出ていました。早速買ってきて、
ここで一番日当たりの良い場所に置くと、小屋の中の雰囲気が一変して、明るく力強くなり
ました。

 年をとってから赤を好きになる人がいるとは聞きますが、どうやら自分もそんなオッチャ
ンのようです。しかもバラやゼラニウムの真紅がいいのです。かといって赤い服を着るほ
どの勇気はありませんので、小屋の中に何か一つ赤い物を置くようにしています。



 梅雨がないとはいえ、ぐずついたお天気が続く水無月の北海道です。


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海岸へ

2016-06-10 | 日記
 

 海岸に少しいるだけで、心身ともにリフレッシュできます。
 湖と違って水平線の向こうに何もないから、見通しがきいて開放された気分になります。
 また潮の香りが、体全体に程良い刺激を与えてくれるようです。

 六月になっても、まだ少し雪の残っている山々の間を縫うように抜けると、穏やかな海岸
に出ます。





 ここは南北海道では珍しい、白っぽい砂浜です。



 潮風をめいっぱい取り込みながら、波打ち際をゆっくり歩き、見つけた流木に腰かけて、
読みかけの文庫本を開きます。
 
 人影はなく、あるのはカモメの声と小さな波音だけです。
 急に体が冷えてきて、気が付くと小一時間もたっていました。

 ポットのお茶を一杯飲んで、さあ森へ帰ろう。


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二上山

2016-06-04 | 日記
 「え~っ!北海道にも二上山はあるんですかぁ~?」
 南大阪や奈良の人はびっくりするでしょう。
 なんと、それがあるんです。

 飛鳥の歴史の、数々の舞台となった二上山、それによく似てしかも遥かにスケールの大き
な山がすぐ近くにあります。正確には千メートル程の山が二つくっついて「駒ケ岳佐原岳」
と立派な名前があるのです。しかし一番いいこの角度から見ると、どうにも一つの山に見え
るのです。しかも長い呼び名は言いにくいので、勝手に「二上山」にしてしまいました。
 ど~も、すみません。

 この山景からして、古い時代の神話民話が、ぎっしり詰まっていることに違いないのです
が、なにしろ文字がなかったので、今となっては何も残っていません。



 ここには姫川もあります。もちろんその昔はアイヌ名だったのでしょう。和人が来たとき
その意味を継承して名をつけたと思うのですが、本当のことは分かりません。



 近くに縄文の大船遺跡があります。国宝の中空土偶で有名になった所です。
 ここから、古事記にも登場する伝説の姫川(新潟県糸魚川市)産のヒスイの勾玉が出土し
ています。
 最近は科学的な成分分析が進んで、鉱物の産地が特定できるようになりました。それによ
ると、日本中の縄文弥生遺跡で出土するヒスイ勾玉のほとんどが、この姫川のものだと分か
ったのです。
 実際に姫川を挟んだ新潟、富山からは加工工房跡がいくつか発掘されていて、特別な技を
持った職人集団がいたようです。



 日本のヒスイの産地は他にも何か所かありました。北海道では日高でいいものが採れてい
ます。
 それなのに、なぜ姫川のものじゃなければならなかったのでしょう。そしてだれがどんな
方法で日本中の縄文村に届けたのでしょう。



 ちょっと寂しそうなお顔を眺めていると、姫川からこの地へ命がけで運んでは来たものの、
年老いて戻れなくなった人が、この川辺で故郷を偲んでいるようにも思うのです。
 古いことは分からないことばかりです。ただ、縄文人も飛鳥人も現代人も同じ景色を見て
同じ感慨を抱いていることには違いありません。

 想像、こじつけ、勝手な話作りはこの先も続きそうです。
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