瀬崎祐の本棚

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詩集「ゆめみる手控」 岩佐なを (2020/10) 思潮社

2020-11-21 10:43:26 | 詩集
 92頁に70編。作者の版画が、表紙カバーには多色で、本文には16葉がモノクロで載っている。
 作品タイトルはすべて二文字で、目次にはそのタイトルが矩形にびっしりと印字されている。なかには意味のとりにくいものもあるのだが、実はこれは作品の冒頭の二文字を切り取ったもの。たとえば「する」という作品の1行目は「するめ噛んでみせ」なのだ。タイトルなんてこんなものさ、とでも言っているかのようで面白い。

 「幼少」は6行の作品。全行を引用する。

   幼少の砌よりはぐれ蜘蛛だった
   網をはって毎日くらしている
   ひっかかった訪問者は
   喰ってしまうので
   話し相手にはならない
   孤独だが贅沢は言いますまい

 すべての作品は4~10行で1頁に収まる長さとなっている。帯には「素描詩」と銘打っているが、たしかに、あるひとときに訪れた感興をさらりと書きとめたといった趣がある。この作品では自虐的な面を見せながらも、同時にどこか肩すかし感も漂わせている。

 「三歳」の前半では、直人が脱皮したぬけがらのことを老いた母が呟く。そこで、

   やや信じて出かけてみると
   五月晴れの紺碧に
   巨大鯉のぬけがらがさわさわさわさ
   群れをなして泳いでいた
   祝景

なぜ巨大鯉のぬけがらなのか、意味の取りようなどできるはずもなく、そんなことを必要とする作品ではないが、とにかく最終行の「祝景」という言葉には、ああ、なるほど、その通りだと思わされる。

 これらの作品がいつ頃書かれたのかは不明だが、今のわれわれを覆っている困難な状況下でだったのかもしれない。しかし、ここにはどこかのほほんとしているような図太さある。強さが感じられるといってもいいだろう。そんな作品を書くことによって己の均衡を保っているのだろうか。
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