瀬崎祐の本棚

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詩集「蟻」 高岡修 (2020/09) ジャプラン

2020-11-17 17:56:15 | 詩集
 第19詩集。87頁に30編を収める。二重カバーの装幀も作者自身によっており、銀色の斑を散らした一つ目の黒いカバーが「高岡修詩集」という文字以外を覆っている。そのカバーを外すと、「蟻」という大きな文字がいっぱいにあらわれ、その文字にいくつもの小さな蟻がとりついている。大変に凝らした意匠となっている。

 作品は1行のものから40行余りのものまでと変化に富んでいるが、そのすべてが蟻を題材にしたものとなっている。「空」は4行の作品。

   蟻の巣穴の入口に
   引きずり込もうとしてできなかった空が
   丸く小さく
   引っかかっている

 機知に富んだ作品で、小さな蟻の巣穴の入口と、その上に拡がる無限大の空を対比させている。巣穴の中から見上げた空は入口の大きさしかないわけで、入りきらなかった空がそこで引っかかっていると捉えた視点には、道理を越えた意欲のようなものがあるのだろうか。

 「命題」では、「寂寥の質量を計測しつづけること」が蟻たちの責務だとする。そしてただ一つの命題は、

   生涯にわたって巣穴から出ることのない蟻たちの寂寥の質量と
   地表で殺された蟻たちの悲哀の質量が
   どう釣り合うか
   である

 ここに留まれば寂寥はどんどんと深いものになっていくのだろう。そしてここから出かけることは、悲哀でしかない死の危険と引き替えであることを覚悟しなければならない。多数の生命はいずれその両者で釣り合うとしても、自らのただ一つの生命はそのどちらに与すればよいのだろうか。そんな風に踏み潰されて裂けた蟻の脳凾からは「漆黒の氷河が流れ出ている」のだ。(「舗道の上で」より)

 作者は、前詩集では収めた作品のすべてで胎児を題材にして、さまざまなアプローチをおこなっていた。今回の詩集では蟻を題材にして、哲学的とも言えるような普遍的なものを引き出そうとしているのだった。
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