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歌詞集「京大からタテ看が消える日」 細見和之 (2023/03) 澪標

2023-04-11 17:44:16 | 詩集
作者は若いころからバンド活動をしていたとのことで、何かの詩の集まりの際にギターを弾きながらの歌唱を聴いたこともある。この歌詞集はそんな作者が10年前から曲をつけた自作詩を集めたもの。77頁に23編が収められている。昨年亡くなられた山田兼士氏に捧げられている。

冒頭の「十三(じゅうそう)駅で乗り換えて」からして、メロディは判らないものの言葉のリズムを感じる。「ここは美しい電車の発着する/つまらない駅」である十三のいささか苦い光景が展開されて、リフレインが効果的にあらわれる。

   十三駅で乗り換えて
   ぼくには会いたいひとがあった
   十三駅で乗り換えて
   ぼくにはいきたい街があった
   十三駅で乗り換えて
   ここで別れたこともあって
   十三

最後の「十三」は歌詞の中で何回もあらわれる(実際には囃子詞のような感じで歌われている)。

基本的には既詩集に発表している作品に曲をつけているようだが、手を加えたものもあるとのこと(巻末の「覚書」に詳しい)。たとえば、妻の言う”ちゃらんぽらん”を幼い娘が真似をして”チャンポラパン”と言い立てるのが愉快な「ちゃらんぽらんな生涯」は詩集「闇風呂」の1編だったが、「かなり圧縮した内容になっている」とのこと。

「京大からタテ看が消える日」。最近ではそれこそ”タテ看”を目にすることは少なくなった。学生運動が華やかだったころは、百万遍の交差点から近衛通りのあたりまで、独特の”タテ看文字”が書かれた大きな木製の看板が並んでいたものだった。京都市の屋外広告物設置条例を盾にして大学はタテ看の規制撤去を謀った。

   そんな日が来るのだろうか?
   そんな日が来るっていうのか?
   そんな日がもう来ているのかもしれない
   そんな日が・・・・・・

「あとがき」ではこれに関連して吉田自治寮の立ち退き問題にも触れている。吉田寮は歴史的に学生の自治が認められてきた場所で、政治活動の拠点になったりもしていた。私事になるが、学生だった頃には吉田寮に同級生がいたことがあって何をするでもなくたむろしたりしていた。そこに映画のエキストラ募集が来たりして(寮には暇な連中が集まっている)、中村錦之助主演の時代劇のロケで彦根の山中で張りぼての鎧兜に身を固めて走り回ったこともあった。

閑話休題。この歌詞集を読めばやはり、どんな曲が付けられているのか聴いてみたいと、誰もが思うだろう。Youtubeで検索すれば、吉田寮でのライブ映像などを観る(聴く)ことができます。
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