瀬崎祐の本棚

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repure  22号  (2016/04)

2016-05-16 18:42:50 | ローマ字で始まる詩誌
 正方形の判型で糸かがり綴じの瀟洒な詩誌。35頁に13人の作品が載っている。以前に発行元の水仁舎に尋ねたことがあるのだが、同人誌ではなく、各号に作品を持ち寄る形式のようだ。

 「山桜」小網恵子。
 その山桜の木には山の神様が下りてくる。婆たちが弁当を食べ酒を飲んでいると、死者たちもひととき戻ってくるようだ。三つの時に川に落ちて亡くなった娘を抱き上げると、

   わずかに水気をふくんだ花びらが二人の顔や手に降りかかる。幼い
   娘と花を見上げる。薄桃色の幾百もの簪、その一つ一つに眼がある。
   黒々と光ってこちらを見つめている。背筋が冷たくなった。花びら
   は皆の頭上を越えて谷の方へ流れてゆく。

 桜の華やかさと、それがひとときのものである儚さは、死を孕んでいるのだろう。

 「もんじゃ焼き」青山かつ子。
 中川の土手で、のりちゃんから亡くなったお兄ちゃん(入水したのだ)の戒名を聞かされる。それからわたしはもんじゃ焼きをやろうとのりちゃんに言うのだ。今でも「中川の鉄橋をわたるたびに/戒名を告げたさびしいこえがきこえてくる」のだが、

   十五のわたしは
   あのとき言葉をもっていなかった
   のりちゃんの好きな
   もんじゃ焼きのほかには

 ほかにどうすることもできなかった遠い日の自分には切なさしかないのだが、その切なさが今のわたしに続いている。

 壱岐梢の「ぽつんと」は、八十四歳だった母が急逝された作品。家の中はそれまでの日常生活の場面がそのまま残されている。そして「母だけが/ぽつんと いない」のだ。
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