瀬崎祐の本棚

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詩集「泰子」 水出みどり (2019/08) 思潮社

2019-09-27 21:17:44 | 詩集
第6詩集か。93頁に17編を収める。
 各作品のタイトルは見開きの左頁に印字され、作品は次の頁から始まる体裁。比較的短い詩行の行分け詩がほとんどなので、視覚的には開け放された部屋のなかを風が抜けていくような軽やかさがある。

 「屈折」。朝の霧のなかでの間欠泉。吹上がった水はさまざまな形となって墜ちていくのだ。地に戻るまでのわずかな時間に煌めいているのだろう。最終連は、

   水晶体の海
   半音階に
   ふるえる波が
   ひかりを
   屈折させている

 Ⅰの13編の作品には音をなくしたような静謐さがある。それは静止した情景の描写で世界が形づくられているからである。その捉えられた情景のなかに、この瞬間までの物語のすべてがある。長い物語をたどった末の情景が今ここにあるのだ。だから、この情景のなかにはこれからの物語も予感されている。

 4連13行からなる短い作品「決意」の冒頭2連は、

   放物線が
   晴れた午後を切る

   振り返ることのない
   いさぎよい弧のかたち

 何の形象であるかの説明はまったくないが、澄んだ空を背景にくっきりとした形を見せているのだろう。そのたわんだ形で固定された曲線に、張りつめた意志を話者は感じ取っているのだろう。話者の気持ちは、その曲線に後押しされるようにどこかへ向かうのだろう。

 Ⅱに収められた3編はやや長い作品。ここでは情景ではなく、物語そのものが動いている。詩集最後には亡くなった異母姉を詩った「泰子」が収められている。
 その大好きな姉が教えてくれた”おへそ”の大切さを題材にしたのが「母のそのまた母の」。へそで胎児は母とつながっており、命が受けつがれていくわけだ。この作品の最終部分は、「胎生の海は昏く泡立ち 祈りのように唄のようにわたしを揺すった。」
 物語を語っても言葉はどこまでも静謐だった。
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