桑の海 光る雲

桑の海の旅行記・エッセー・書作品と旅の写真

礼文島・花の島⑭

2005-04-03 21:01:20 | 旅行記
アトリエ仁吉は今年初めて訪れたわけだが、連日訪れていろいろ話しているうちに、仁吉さんは、穏やかさの中にも深みのある、情熱を秘めた人柄であるように思われた。ここまで歩いてきて、足の痛みとともに、とにかく気力が失せかけていた。仁吉さんと話していれば、気持ちが癒されて、残りの道も歩ききることができるのではないか。そんなふうに考え、アトリエ仁吉に急いだ。

到着してみると、ヘルパーのりきちゃんがバイクで来ていた。差し入れを持ってきてくれていたのである。本当は彦さんや他のお客さんにも来ていてほしかったのだが、夕食の準備に入る時間であるからそれは難しい。でも、りきちゃんから渡されたおむすびの包みには、彦さんの筆跡とおぼしき文字で「がんばれよ!」とあり、それで充分激励になったように思われた。ここでようやく落ち着いて食べ物を口にすることができた(仁吉さん、スミマセンでした)。

30分ほど、りきちゃんと仁吉さんと三人で話した。今では想像もつかないことだが、この頃のアトリエ仁吉には、ツアーバスの来る時間以外は、YHや星観荘に泊まっている客以外はほとんど訪れる人がいなかったのである。だから、ちょうどツアーバスの谷間の時間にやってきた私は、三人でのんびりと話すことができた。りきちゃんは先に帰り、仁吉さんと二人でいろいろと話した。どんな話であったかは忘れてしまったが、歩くことに対して気力を失いかけてきた私が、何とか最後の力を振りしぼろうという思いを持つことができたのは確かである。

結局アトリエ仁吉には1時間ほどもいてしまった。重い腰を上げてアトリエ仁吉を出発し、坂道を登った。西上泊の神社の鳥居をくぐり、辛い登りをようやく登り切ると、鉄府の浜と、その先に聳えるゴロタ岬が見えた。今登り切った高さを再び0メートルの海岸まで下り、鉄府の浜を延々と歩き、そこから100メートル近い高さのゴロタ岬まで一気に登るのである。でも、これまでの道とは異なり、行き先がはっきりと見えているので、安心して歩くことができるのは幸いである。しかも、この辺りで皆が悩まされるという強い風もない。そして、時間的にどうやらちょうど24時間くらいで歩くことになりそうで、先を急ぐ必要もない。足の痛みやともすれば萎えそうになる気力とよく相談しながら、この先を歩こうと決意した。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする