桑の海 光る雲

桑の海の旅行記・エッセー・書作品と旅の写真

礼文島断章13・「忘れないで」

2005-04-21 22:51:35 | 旅行記
旧星観荘のブラックホールに「忘れないで」という歌の歌詞を書いた紙が貼られていた(今も貼られているかも知れない)。「忘れないで」は礼文で以前から歌われてきた歌で、作詞・作曲とも不明だとのことである。

「忘れないで」を初めて聞いたのはいつのことだったろうか。彦さんがギターを弾きながら歌ってくれたのも覚えているし、香深港の見送りの時に歌われていたのを聞いた記憶もある。桃岩荘の閉館にやってきたついでに星観荘に泊まりに来た、G子とDでんというキョーレツな女性二人組が歌ってくれたのも覚えている。でも、初めて聞いたのがいつだったかは覚えていないのである。

この歌を聞くと、何とも言えない寂しさに襲われる。
「忘れないで 忘れないで この島のことを」
もちろん礼文のことなんか忘れるはずはない。でも、この歌を聞くと、礼文での楽しい時間が本当に終わってしまうんだ、ということをいやが上にも実感させられてしまう。
「巡り会えた旅人達の 子供のような目を」
そう、礼文に来るたびに、いろいろな印象深い人と出会うことができた。みな、礼文で過ごす一時を無邪気に楽しんでいた。礼文に来たのが何回目か忘れてしまっているくらいの最近の私は、そんな「子供のような目」を失ってしまっているのではないだろうか。
「野山を飾る花よりも美しいものがある それは花に囲まれた飾らない君の笑顔」
そんな人との出会いもあった。熱に浮かされたようにメールを送ったり、手紙を書いたり・・・でも、「愛とロマン」にまで発展することはなかった・・・

二番。
「旅立つ船が見えなくなるまで ちぎれるほど手を振ろう」
礼文で何人の人を見送り、何人の人に見送られただろう。そのたびに大きく手を振り、大きな声を張り上げた。「行ってらっしゃい、また来いよ。」「行ってきます、また来るぞ。」手を振る時の寂しさ、そして、手を振られる時の、後ろ髪引かれる思いは、何とも言い難いものがある。
「最果ての海の色より澄んだものがある それは船のデッキの上で手を振る君の涙」
旅立つ女性の涙ぐむ顔を幾度目にしただろう。流す涙の量は、礼文に残した思いに比例するような気がする。そう言えば、ここ数年涙のうちに出発する人って、見なくなったなぁ・・・

そんな風に、礼文での様々な思い出をそのまま重ね合わせることができるこの「忘れないで」を、何とかして書作品にしたいと考えるようになった。そんな時、ちょうど終了制作計画書の提出期限が迫っていた。6年間の学生生活を締めくくる作品の題材に、最後の一年間入れ込んだ礼文の歌「忘れないで」の歌詞を取り上げようと決意した。

決意までは早かったが、制作には大いに苦労した。歌詞に対する思いが深すぎるあまり、その思いを充分に書作品に表現することができないのである。両者の溝は結局最後まで埋まることはなく、全く不満足なままに作品を提出した。しかし、後から振り返ると、出品作品だけでなく、そこに至るまでの格闘も合わせれば、歌詞への思いは充分につなぎ止めることができたのではないかと思う。



コメント
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