桑の海 光る雲

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礼文島断章14・月遅れの七夕

2005-04-22 21:36:43 | 旅行記
礼文の七夕は1ヶ月遅れで8月7日である。ちょうどこの時に2年続けて泊まったことがある。今日はこの時のことを書いてみようと思う。

礼文の七夕では、内地と同様に、短冊を書いて下げる。しかし、礼文には竹がないので、代わりに柳の枝を用いるのである。これに内地の笹飾り同様、いろいろな飾りをこしらえて取り付け、短冊を下げる。この飾りは、七夕が終わると海に流すことになっている。

94年は大変暑い年で、私はトド島で気持ちよく泳いだし、船泊の海水浴場にはたくさんの海水浴客が見られた。七夕の夜、船泊の町の商店街は歩行者専用になり、舞台や縁台が設けられる。露店がいくつも出て、いろいろな食べ物を売っている。浜鍋やウニ剥きには旅人が並び、焼鳥やチョコバナナなどには、地元の子供が並んでいたのが面白かった。

ここで私は珍しいものを見た。ポン菓子作りである。直径30センチくらいの金属製の筒に米(この年は米不足の年で、タイ米だったのを覚えている)を入れ、ふたをして、根元をガスの火で加熱する。しばらく時間が経つと、筒の先に網製の大きなかごを取り付ける。そして、一気にふたを外すと、大きな音がして、中に入れた米が何倍にも膨張して、かごはポン菓子で一杯になった。ポン菓子は何度も食べたことがあるが、こうして作られるとは知らなかった。

船泊の町で夕方を過ごし、夕食の時間に合わせて星観荘へ戻った。今日は七夕パーティーということで、いろいろと趣向を凝らした料理が出た。しかも、バイキング形式なので、食べたいだけ食べられる。私はこの晩が星観荘での最後の夜だったので、親しくなった人達とそれはそれは楽しく過ごした。

その日の日中は4時間コースを歩いてきた。途中の鉄府の集落の自動販売機で、チョコバナナソーダという見たことのないジュースを見つけ、思わず買ってしまったのである。皆でまわし飲みすると、これがまた何とも言えない不思議な味の飲み物だったのである。私達はこれをお土産に持って帰ることにし、1缶買って帰った。帰るとちょうど彦さんが自動販売機にビールを入れており、当時は何が出るか解らないボタンが一つ設定されていたので、そこにそのジュースを紛れ込ませてもらった。

食後にミーティングを行い、その後、七夕記念一人一曲コンサートが始まった。なぜか小さな旅の博物館に常備されている歌の本が一冊あり、それを見ながら一人一曲歌うことになった。ギターは彦さんである。私は「眠れぬ夜」を、Kさんは彦さんオリジナルの「君に寄せる思い」を歌い、Qちゃんはギターを演奏した。皆の歌を聞いていると、自動販売機の方でQちゃんの素っ頓狂な声が上がった。何と、あのチョコバナナジュースを自ら引き当ててしまったのである。事情を知る我々は、腹を抱えて笑ってしまった。こういう偶然もあるのである。

コンサートが終わり、まったりタイムになった。ここで私達は「斜陽ごっこ」を始めた。トド島に行った時、一緒だったRちゃん(♀)がトイレに行きたくなり、ちょうどよい場所が見つからなくて困った話をしてくれた時、私が太宰治の「斜陽」に次のような一節がある話をした。

お母様は、つとお立ちになって、あずまやの傍の萩のしげみの奥におはいりになり、それから、萩の白い花のあいだから、もっとあざやかに白いお顔をお出しになって、少し笑って、
 「かず子や、お母さまがいま何をなさっているか、あててごらん」
 とおっしゃった。
 「お花を折っていらっしゃる」
 と申し上げたら、小さい声を挙げてお笑いになり、
 「おしっこよ」
 とおっしゃった。
 ちっともしゃがんでいらっしゃらないのには驚いたが、けれども、私などにはとても真似られない、しんから可愛らしい感じがあった。

すると、Rちゃんは、「じゃあ、あたしも今度からはそれと同じような格好をしようかな。」と答えたのである。
話題がそのことになったので、部屋から緑色の毛布を持ってきて、KさんとQちゃんが二人でその両端を広げて持った。その向こう側にRちゃんがしゃがみ、すっと立ち上がる。Rちゃんが「かず子や、お母様が今何をしているか、当ててごらん。」
と言う。私が「お花を折っていらっしゃる。」と言う。するとRちゃんが「おしっこよ。」と答えた。事情を知っているのは、我々数人だけなのだが、そんなくだらないことでも大爆笑であった。この日は皆異常にテンションが高く、その後もブラックホールに場所を移して、空が白み始める頃まで騒いでいた。今思うと、この時のメンバーが、星観荘で出会った最高のメンバーだったように思う。

七夕記念一人一曲コンサートも、七夕記念特別ディナーも、その年が最後であった。現在では、この日は夕食がなく、船泊の屋台で夕食を済ますことになっている。

コメント
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