TheProsaicProductions

Expressing My Inspirations

kusazoushi:Santoh Kyouden Ⅲ

2010-09-09 | bookshelf
***山東京伝 3: 一世風靡***

江戸時代後期の女性に「あなたもきつい艶二郎(えんじろう)ね」と言われたら男性は自らを省みましょう。
外見も中身も平凡なのに自分は女性から好かれると思い込んでやしませんか?そんなことない?実際本当にモテるんだッて?おやおや、ここにも艶二郎・・・。

 手拭合の会で出品した図案が先だったのか、その頃既に草双紙のストーリーがあったのかはわかりませんが、1785年獅子鼻の不細工な青年が主人公の『江戸生艶気樺焼(えどうまれうわきのかばやき)』が蔦屋から刊行されました。
豪商の一人息子、仇木屋艶二郎(あだきやえんじろう)は醜男なのに自惚れが強く、自分が女性にモテるということを世間に認めさせるために、遊び仲間の道楽者と太鼓医者に相談し、モテる男がしていた事(歌舞伎や浄瑠璃などの物語の登場人物も含む)をお金を使って次々に試みます。しかし、端から見るとそれは滑稽でしかなく、世間の人々は馬鹿な奴だと嘲笑していました。そこで艶二郎らが考え出したのが、遊女との心中事件を起こす事でした。といっても本当に死ぬ気はないので、吉原の女郎・浮名を金で雇い、駆け落ち心中道行の茶番劇を企てたのでした。ところが艶二郎と浮名は途中で追い剥ぎに遭い、命乞いをして丸裸にされてしまいます。情けない目に遭って少しは後悔する艶二郎・・・
               
実は、追い剥ぎは艶二郎をこらしめるために親が差し向けたもので、これを機に艶二郎は馬鹿なことをやめて浮名と結婚して、めでたしめでたし。
 他愛ない筋立てではありますが、艶二郎が真似する「モテ男」が、当時の色男の認識を如実に現していて笑えます。そして京伝の描く獅子鼻のキャラクターが艶二郎を憎めない男にさせ、本は江戸中で大ヒット。主人公の名前は「自惚れ」の代名詞となり、庶民の間で流行語になりました。名前だけでなく獅子鼻が草双紙で流行し、作中で登場する京伝自身の鼻も獅子鼻で描かれ、他の戯作者もこれにあやかったため、戯作者はみんな獅子鼻だと思われた時期があったそうです。
 黄表紙と呼ばれるこのような草双紙は、正月に新作が出版されるのが習わしだったので、前年の手拭の図案の頃には版下は仕上がっていた可能性は高いです。そうすると手拭合の会での図案は本編の前フリで、本が売れれば商品化される可能性も見越していたかもしれません。そのあたりはどうだったのでしょうか。キャラクターグッズは作られなかったのでしょうか。私が読んだ限りの近世文学・出版に関する本には触れているものはありませんでした。
 画工でもあった京伝は、絵を先に描き後からストーリーを考えることも多かったそうです。現代の漫画のような作り方ですね。
 尚、『たなぐいあわせ』と同じく白鳳堂から出版された『小紋裁』も売れたので、蔦重が『小紋新法』(1786年刊)、『小紋雅話(こもんがわ)』(1790年刊)を出版しています。こういった手合いの商売には蔦重は抜け目ありませんでした。


 
コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« kusazoushi:Santoh Kyouden Ⅱ | トップ | kusazoushi:Santoh Kyouden Ⅳ »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

bookshelf」カテゴリの最新記事