人形―ひとがた―の世界は奥深い。深すぎてどこから手をつけてよいのかわからない。
地球上には人間の想像を遥かに上回る数の生物が存在している。そのほんの一部の生態でさえ未だよくも解明できず、日々多様な生物を理解するための興味と研究は尽きないわけである。
にもかかわらず、自然科学が発生する以前から人類は人間に似た間の存在を追い求めている。追い求めている、というより人間そっくりだが人間ではない存在がどこかにいる筈だと願っている。何故かは解らない。多分人間である限り知りえないことだろう。ヒトであるためのDNAとかもっと細部にそういう存在を求めるように信号がインプットされているのかもしれない。何故なら女の子も男の子も砂場や砂浜で山を作ったり人の形をした怪物のような泥人形を作ったりするではないか。
泥人形は、東欧ユダヤ教に伝承されている怪物でヘブライ語で
ゴーレム(golem:胎児を意味する)と呼ばれている。私は読んではいないがグスタフ・マイリンク(1868-1932)の「ゴーレム」という小説(1915年)や「巨人ゴーレム」という映画などによると、ルドルフ2世辺り16世紀末~17世紀のプラハのゲットーでゴーレムは誕生したようである。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/3f/2d/e8630f158d7db6b32c2e767061b18104.jpg)
↑画像のゴーレムは、プラハ出身のアートアニメーター、イジー・バルタの「ゴーレム」(96年)という人形アニメと実写とCGを合成した映画に登場するゴーレム。私の見たのは完成品ではなくパイロット版の10分弱の映像だったが、土塊がシェーム(秘密の言葉)でゴーレムとして動き出すという伝説を元に作られている、という事で、その他のゴーレム作品と源は同じもの。
粘土の人形なので最初は小さく醜いが服を着せ靴を履かせ成長すると人間そっくりになり、日曜日以外は人間の下僕となってまめまめしく働いた。それだけでなく、護符のおかげで姿を見えなくすることもできたのでスパイとして使われたり政治的暗殺や儀式殺人の容疑を引き被って告訴を無効にするのにも役立てたらしい。要するにゴーレムはユダヤ人にとって恐ろしい怪物ではなくユダヤ人を迫害から守ってくれるヒーロー的な存在なのだった。
子供は自分の言う事を何でも聞いてくれて強くて頼れる存在を、玩具や自分の創った泥人形などの中に求める。呪文を唱えれば本当に動き出すんじゃなかろうかと考えたことはないだろうか?
でも、それは子供に限ったことでもなさそうである。現にゴーレム伝説を作ったのは大人だし、ゴーレム→人工生命体Artificial Life を作り続けているのは学者や知識人である。 人工生命体などと書くとアンドロイドとか最新科学技術へ話が飛んでいきそうだが、ここでは科学技術・理工学的な話に持って行くつもりではないので、あくまで文学的浪漫主義な流れで、もっと昔―旧約聖書にまで戻ってみようと思う。