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the gap between Japanese mythology and ancient history 5

2017-11-09 | ancient history

古田敦彦著『日本神話の源流』講談社現代新書1976年刊
日本神話が海外の古代神話に酷似している事例を解りやすく解説
だからといって全てが海の向こうからの伝承に影響を受けた
と短絡的に結論することは避けたい

 今春、松本清張著『火の路』を読んで、ゾロアスター教という古代宗教を知って調べているうちに、「シルクロード交易商人ソグド人」の存在に興味を惹かれました。
The connection between Asuka and Scythian で、ソグド人については少し書きました。
 中央アジアの古代史研究者の書籍をいくつか読んでみたところ、ソグド人と呼ばれる民族は、現在のウズベキスタンとタジキスタンの一部に位置していた“ソグディアナ”という都市に住んでいましたが、統一した独立王朝を持たなかったため、外来勢力(ペルシャ人の支配、ギリシャ人の支配、大月氏の支配、イスラム帝国の支配、テュルク系遊牧民族の侵略など)の変遷が政治史に残っているのみで、ソグド人自体の情報がほとんど残されていない状況らしく、未だ以って謎の民族のままです。
 しかし、ソグド人は200年代頃に東西交易に参入し、400年以降はテュルク系遊牧民と共同でシルクロード交易を掌握し、西はビザンティン帝国(東ローマ帝国;首都は現イスタンブール)から東は華北(中国北部)まで商業民として活躍していたことはわかっています。シルクロード交易の全盛期に当たる400年代~600年代、ソグド商人のキャラヴァンは華北のあちこちにコロニーを作って定住したため、彼らの文化や宗教も流入し、長安(中国西北地方にある関中平野のほぼ中央部)では胡風趣味(ペルシャ風文化)が流行ったり、ゾロアスター教は祆教(けんきょう)という名称で唐の時代に栄えたそうです。
 また、ソグド人は商売上契約書を必ず作成していました。ソグド文字で書かれた契約書の木簡が今も残っています。売買書類だけではなく、彼らの商圏の状況なども記述した『古代書簡』という、313年に書かれた最古のソグド語文献が敦煌で発見されています。さらに、インダス川上流地域の交易ルート沿いで書かれたソグド語碑文が600点ほどもあるそうです。
 
 隋・唐の時代(589~907年)の首都・長安に栄えていたソグド人文化。飛鳥時代に日本から派遣された遣隋使や遣唐使が、それらに触れなかったはずはありません。ソグド文字は読めなくても、伝え聞いた内容を帰国後ヤマト政権の為政者に報告したはずです。ソグド人を介して伝えられた西方の話は、どのようなものだったのでしょうか。ギリシャ神話やローマ神話、ナザレのイエスの伝説…など含まれていた可能性はあると思います。
 実際、初めて『古事記』を読んだ時「この話、あの物語に似ている」と感じた神話がいくつかありました。
――妻を失った男神が、妻を取り戻しに冥界へ行き、妻が冥界の神に嘆願を試みる。嘆願は、なんとか受け入れられる。男神が冥界から出るまで決して妻の姿を見てはいけない、という条件で。しかし、男神は途中で不安に駆られ、確かめるために妻の姿を見てしまう。
約束を破ってしまった男神は、冥界から追われ、妻からも恨まれて、2人は永遠に別の世界で生きることになった。――
ギリシア神話の「オルペウス(日本語表記:オルフェウス)の冥府下り」の筋書は、『古事記』に描かれた伊邪那岐・伊邪那美の「黄泉の国」の物語とほぼ同じ展開です。
 日本神話で一番有名な、天照大神の「天岩戸伝説」もギリシア神話に同じような物語があります。ゼウスの妻デメーテルと娘のペルセポネーを主神に祀るエレウシス(古代ギリシアの小都市:現エレフシナ)に伝わる神話や、アルカディア地方(ペロポネソス半島中央部)のデメーテル神話の異伝がそれにあたります。
――豊穣の女神デメーテルは、夫ゼウス神が娘のペルセポネーを冥府の王に連れ去られたのを黙認していたのに激怒し、神界を離れて人間界を放浪していると、エレウシスの王の館へ迎えられた。それまで口もきかず食べ物も口にしなかったデメーテルは、王妃と侍女バウボからの心のこもったもてなしに、少しずつ心を和らげた。食事を食べないことに業を煮やしたバウボが、自分の性器を露出して滑稽な仕草をしてみせた。これを見たデメーテルは思わず笑いだし、食事をしたという。――
 アルカディアではエレウシスとは異なる物語が伝承されています。
――デメーテルは欲情した弟神ポセイドンに後を付けられてる事に気づいて、牝馬に変身し他の馬の中に紛れ込んだ。しかしポセイドンはこれを見破り、自分も牡馬に変身して無理やり情欲を遂げた。憤ったデメーテルが山中の洞窟に閉じこもってしまったため、世界は大飢饉になった。困ったゼウスは、運命の三女神モイライを派遣して説得し、洞窟から出させた。――
 
 確かに、2つをミックスすると日本神話にそっくりです。物語が派生した時代は明らかに日本神話の方が遅いので、古代ギリシア神話の断片が、長い年月を経てユーラシア大陸の東の果ての島である日本列島に伝わった、ということなのでしょうか。
 では、どうやって伝わり、誰が日本の神の物語として「日本人の神話」化したのでしょうか。
コメント
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