1983年‐2000年の英国に、クリエイション・レコーズというインディペンデント・レーベルがあったことを知っている人が、日本にどのくらいいるでしょうか。
クリエイションは知らなくてもOASISを(名前だけでも)知っている日本人は、多いと思います。OASISの発売はSONYだったでしょという人もいるかと思いますが、元々OASISは、地元マンチェスターの小さなクラブでのギグを見たアラン・マッギーという男が即決でレコード契約し、成功させたバンドです。このアラン・マッギーが1983年に仲間と設立したのがCREATIONでした。OASISと契約した'93年の前年に、クリエイションは資金難を乗り切るためソニーと資本提携していた為ワールドワイドではSONY流通でした。同様に、Jesus and Mary chainはWEA(Warner)、RIDEはWarner傘下のsireレーベルで流通していたせいか、日本盤を購入した人は気付かない人も多いかもしれません。
The Beatles以来、アメリカでも成功したUKロックバンドOASISを世に送り出したインディーレーベルっていうんだから、大層しっかりした運営をしていたんだろう...などとなるのは、○○大陸みたいな番組に出てくる日本企業くらい。creationがいた時代のUKはアシッド・ハウス・カルチャーの全盛期で、アーティストのみならず、経営陣スタッフがそれにどっぷり浸かり、リーダーのアラン・マッギー自身が率先して週末にドラッグパーティを開き、それまでストレートだった人間まで薬漬けにさせてしまった程、Crazyな集団だったそうです。映画の詳細は
公式HPで。
自身もバンドマン(Biff Bang Pow!)であるA・マッギーの審美眼と、アランと中学が同じだったボビー・ギレスピー(P.Scream Jesus&MaryChain)の人脈とUKアンダーグランド・シーンの要求するサウンド(ノイジーな攻撃的サウンド&牧歌的なギターサウンド&サイケデリック・ポップ)の相乗効果でCreationサウンドというブランドみたいなのが出来上がり、日本でも80年前後に出てきたインディーレーベルをレーベル色で聴いていたリスナーがいました。日本にまで入ってくるのは、それなりに売れたバンドが1つでもあって、そのバンドの音楽性が所属するレーベルの音の指標となっていました。例えばThe Smithsをリリースした
Rough Trade Records、The Cureの所属する
fiction records、シュガーキューブス時代からビヨークがいる
one little indian、1978年設立以来現役組の
cherry red、ダニエル・ミラーの
mute、
4AD、今は無きFactoryと提携していたこともあるベルギーのレーベル
Les Disques Du Crepuscule、ブリット・ポップ全盛期にOasisと競わされたBlurを排出したfoodとかThe stone rosesのsilver toneとか、もう竹の子のようにインディーレーベルが生まれました。
インディーレーベルが何十年も生き残れるのは、至難の業です。Creationも金銭面で経営破綻した、と聞けば「失敗」のレッテルを貼られそうですが、自分のやりたいことをやろうと思って始めた仕事が終局を迎えたとき、何を持って「成功」「失敗」を決めるのでしょうか。Oasisのヒットで、会社は生き延びることもできました。しかし、アランは第2のOasisを探し始め、その後は代わり映えのしないギターバンドを売り出していた感は否めません。それは彼にもわかっていたことで、会社を黒字経営させる為に自分の哲学を曲げるのに耐えられなかった彼は、共同経営者だった他の2人と相談してCreationを閉鎖してしまいました。
音楽ファンにとって、またひとついいインディ・レーベルが消えてしまった、という寂しい気持ちがします。でもあのまま続けていても、アシッド・ハウス・ムーヴメントも去り、ブリット・ポップも死滅し、Oasisも解散し、音楽業界自体が変革を迫られてレコードメーカーが息絶え絶えになっている今日。いい時期にやめたんじゃないのかな、と感じました。
この手のドキュメンタリーでは、終焉がわかっていると最後がなんとなく重苦しく感じるものなのですが、『UPSIDE DOWN』はあっさりと「あれ?」て感じに終わってしまったから、暗くならなくて助かりました。