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Expressing My Inspirations

after reading"Das Spiegelbild theater" 3 final

2021-01-23 | bookshelf

ミステリー小説はあまり読みませんが、食指が動いた要因は"E.T.A.ホフマン"だけではなく『鏡影劇場』というタイトルにもありました。
内容が推し量れない怪しげなタイトル。ですが、読了後、混乱した脳みそを整理してゆくと、確かにこの小説は"鏡影"であり"劇場"でもあるなぁ、と思いました。
E.T.A.ホフマンを"エータ・ホフマン"と読んで"ホンマエイタ"と名付けられた人物は、あたかもホフマンを体現したかのような姿かたち、所作、性質の持ち主。作中で言及されていた言葉で言うなら、doppeltganger ドッペルトゲンガーと云えるでしょう。本書によると、よく使われるドッペルゲンガーという言葉は〈二重人格〉を意味するのですが、" t "の入るドッペルトゲンガーは〈分身〉という意味合いを持つのだそうです。あたかも鏡に映る自分を見るような感覚ではないでしょうか。
他の登場人物もホフマンを取り巻く人々の名前を踏襲させて、作者の意のままに動く操り人形のように役割を与えられています。黒い重厚な装丁の本が、この人形たちの劇場のように思えます。そして人形遣いは、読者までもこの劇場の中に取り込んでしまおうと仕掛けたのでしょうか。"本間鋭太"をネットで検索した人は要注意ですね。
作者・逢坂剛の正しい読み方を知らなかった私は致命的でした。逢坂剛はOHSAKAGOで、KOGASAHOに組み換えたということで、これがわかっていれば作者のドッペルトゲンガーが解りますから、鳥瞰的に物語を読むことができたのですが・・・。

2年前、ロシアのストップモーションアニメ『ホフマニアダ』が日本公開されましたが、ホフマン自身の生き様が彼の作品以上に後世の人々を魅了してやまないみたいです。
 子供の頃、ピアノの練習曲で"ホフマンの舟唄"というのがあったのを思い出しました。今の今までそれがE.T.A.ホフマンの事だとは知りませんでした。ホフマンは生前、元々マルチな才能の持ち主でしたが音楽の方に傾倒していて、小説家としてデビューしてから病で亡くなるまでの十数年間はマイナー文筆家で貧乏だったそうです。死後ドイツ以外の国で人気が高まり、ホフマンの小説を使ってフランス人が創作した戯曲をフランス人作曲家オッフェンバックが『ホフマン物語』というオペラに仕立て、その中で歌われる曲が"ホフマンの舟唄"だとわかりました。
 気味の悪いお話が多いホフマンの作品ですが、人の心を捉えて離さない何かがあります。

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after reading "Das Spiegelbild theater" 2

2021-01-16 | bookshelf

逢坂剛 著『鏡影劇場』袋綴じ部分

 一杯食わされた! これが袋綴じ以降を読んだ私の感想です。
川本三郎氏の書評の中に「入れ子構造になっているのが工夫」とさり気なく書いてありましたが、この作品の構造はさながらマトリョーシカみたいなのです。
『鏡影劇場』という本の作者は逢坂剛ではありますが、表紙をめくると、実は『鏡影劇場』という小説の原作者は本間鋭太という見ず知らずの人物で、その人物から勝手に原稿(フロッピーディスク)を送り付けられた逢坂氏が編者となって出版の仲介をした、というお断りが〈編者識語〉に明記され、次に始まる本編には―『鏡影劇場』本間鋭太・作 逢坂剛・編― と扉が付いているのです。
無垢な読者は"本間鋭太"が書いたんだ…と思いながらプロローグを読み始めることになります。
舞台はスペイン。モノローグだけれども主語が省略されているため性別が不明ですが、どうやら成人男性らしく、かなり専門的なクラシック・ギターの話から始まります。彼はマドリードの古書店で、裏にギター譜が手書きされた古文書を入手します。この時点でこの人物像の叙述はないけれどもこの男が主人公だと思って読み進んでいくと、舞台が日本に移ったところで脇役に回ってしまいます。
古文書が古いドイツ語の文字で書かれてあり、解読するためにドイツ浪漫派の専門家に翻訳の仕事を依頼することになるのですが、その専門家の名前が原作者と同じ"本間鋭太"。
その本間鋭太が翻訳した古文書の内容と補足説明が、E.T.A.ホフマンの半生記になっているのです。ホフマンとドイツ文学を知らない読者も、読み終えた時には立派なホフマニアン(シャーロック・ホームズのシャーロキアンのようなもの?)になっている仕掛けです。
更に古文書―ヨハネスがホフマンの妻に宛ててホフマンの言動を報告したもの―から派生した本間鋭太の雑学が、ホフマンの生きた同時代の日本(江戸末期)にまで話が及び本間自身とつながっていた?!と仰天な展開になります。本当ですか、逢坂さん・・・と思った瞬間、ハタと気づきました。
この小説の作者は逢坂氏で、原作者・本間鋭太は作中人物、つまり架空の人物なのだった、と。だからここに登場する人物の日本名に違和感を感じるのは、作者が意図的に造った名前だからに違いないのです。なにはともあれ、袋綴じ以降で種明かしされて、本編は完結します。
ところが、続く〈あとがき〉には、「この作品は原作者自身が実際に行った例の古文書の解読と翻訳の作業、もしくは自分の専門分野の研究成果を小説風に組み立ててまとめたもの、ということになろうか。」などと書かれてあり、『鏡影劇場』の分析がなされているのです。
おまけに、逢坂氏は仕事の合間に謎の原作者を探して会いに行った、と書いてあります。その様子は〈あとがき〉にしては長文で、まるでホラー小説のような・・・ですが、ちゃんと最後に"逢坂剛"と書いてあります。続いて【謝辞】、文献一覧が掲載されあり、学術書みたいだなと思いながらページをめくると〈編者跋語〉というのがあって、〈あとがき〉から文献一覧までは原作者が逢坂剛になりすまして書いた偽作だと明かされます。
ところが、逢坂氏自身も本間鋭太宅を訪ねて、そこで真の原作者(だと思われる)人物に会ったと告白してページが尽きます。
無垢な読者はいよいよ混乱します。どこまでが幻想(妄想)でどこからがリアルなのか・・・


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after reading "Das Spiegelbild theater" 1

2021-01-14 | bookshelf
逢坂剛 著『鏡影劇場』新潮社2020年9月刊

新聞の書評欄で、久しぶりに私の尊敬する評論家の名前を見つけました。
逢坂剛という作家の『鏡影劇場』という本のレヴューで、掲載されたコラムの真ん中には、"ドイツ文学への愛"と大きな文字が書かれてありました。
最近の小説家に疎く、恥ずかしながらこの作家の名前の正しい読み方も知らない私は、お堅い学術書の類いなのかと思いましたが、E.T.A.ホフマンという文字が目に付き、食指を動かされ読んでみました。どうやら学術書などではなく、19世紀ドイツの文豪E.T.A.ホフマンの伝記+ミステリーという趣向の日本が舞台の現代小説だと判明。ちょうど本を読む余裕ができた頃でもあったので、ネットで中古本を取り寄せました。
書評の最後に、謎が解けるくだりから袋綴じになっていると書いてありましたが、中古本なので期待はしていなかったものの、何と新品同様の代物が届きました。ハードカバーはお高いので、よい買い物をしました。
さて、19世紀ドイツの作家の作品を読んだことがない人、ホフマンなんて作家聞いたこともない人にとってはハードルが高そうに思われそうなこの作品。確かに作中に出てくるホフマンに関する報告書や、その報告書の翻訳をこなす、この『鏡影劇場』を書いたとされる本間鋭太(ホンマ エイタ)なる人物による注釈の部分は、ホフマンに少しも興味がない人にとっては退屈かもしれません。
しかし、そこはミステリー小説たるこの作品の強みで、「ホフマン文書」とも云える報告書を書いたヨハネスの正体は?本間鋭太とは何者なのか?報告書を発見し翻訳を依頼した倉石夫妻との関係、さらに本間と倉石夫妻の仲介をする本編の主人公(?)古閑沙帆や謎めいた登場人物(名前しか登場しない者もいます)たちとの因果関係等々・・・謎解きのためにとりあえず先へ先へと読み進んでしまいます。ショートカットしたくても、そこはほれ、袋綴じになっているので作者の意のままに読み続けるほかないのです。
本物であれば大発見になるかもしれない「ホフマン文書」の謎解きと、本編に登場する人物たちの不思議な因果関係が同時進行し、更に本間鋭太による「ホフマン文書」の内容に関する考察などが組み込まれ、読者の脳は少々混乱させられるかもしれませんが、勘の鋭い人ならば、ドイツ文学の知識がなくても、ちりばめられたヒントを基に登場人物たちの相関図がおぼろげに浮かび上がってくることでしょう。その頃には、袋綴じを開封するところまできているかもしれませんが。
そして遂に綴じられていたページをピリピリと開くと、「ホフマン文書」を書いたヨハネスの正体が明かされます。登場人物たちの謎は何となく早い段階で察しがつきましたが、ヨハネスの正体は思いつきませんでした。何故かという説明もされているので、ナルホドと納得。
謎は解けたのでこれで終わり、と思いきや、本当の"謎"はここから始まるのでした。
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