TheProsaicProductions

Expressing My Inspirations

folklore accepted as Japanese history 2

2018-07-08 | ancient history
中公文庫版 日本の歴史全26巻 第1巻 2012年改版
初版発行1973年
著者:井上光貞 1917-1983年。東京生まれ。井上馨と桂太郎の孫。日本の歴史学者。専攻は日本古代社会思想史。
執筆協力: 大林太良(民族学) 森浩一(考古学)

 日本古代史、特に神代記が絡む歴史については、皇国史観に左右されない戦後生まれの研究者の方がよいであろうと、明治生まれの研究者の書籍は避けてきました。しかし、在野も含めると現在の歴史研究家は数多く専門分野も細かく分かれ情報も多岐にわたるため、諸説が溢れすぎているせいで素人は混乱してしまい、結局「著者の研究の成果はどうだったの?」と煮え切らない思いが残るものが結構ありました。他の研究者の説を批判することに終始した著名な研究家の著書を読んで、時間を無駄にしたこともありました。そこで、一度自分の先入観を捨てて、大正生まれの大御所歴史学者の書籍を読んでみることにしました。
 井上光貞氏は、祖父がどちらも明治政府の高官で為政者側の家系出身ですが、今まで読んだ歴史書の中で一番ニュートラルで、それでいて自身の見解を明確に述べた文章だったので、とても解りやすく納得できる歴史書でした。参考文献も多く、海外の古代文明の神話との比較や考古学の成果も扱われていて、専門外の事はその分野の研究者に協力を求めているところも、歴史に対する誠実さを感じました。私が抱いた日本古代の歴史の疑問のほとんどが、この本には書かれていました。
例えば、
*「天皇」はいつから「天皇」と呼ばれるようになったのか?―「おおきみ」と呼ばれていた日本の支配者を、古代中国の「天」の思想を受け入れていく過程で、推古天皇の時代600年代初めから「天皇」と呼ぶようになった。古事記型創成神話もその形を整えてきたのであろう。
*『古事記』『日本書紀』の国生み神話について―国生み神話で生まれてくるのは本州・四国・九州その他の「大八州国」で、ヤマト政権が支配する政治的な国土の誕生である。イザナギ・イザナミが国土と風土の神を生んだ後、天照大御神ら三神が生まれるのは、政治的な国土とその国土を支配する為政者の祖神を生む神話となっている。だから、津田左右吉氏(日本と東洋思想史研究学者)の言う「この国生み神話は政治的な意味の物である」というのはまったく正しい。
*黄泉国神話について―井上氏は津田氏の「黄泉の国の話は神代史全体の構想と関係ない」という意見に、「はたしてそうだろうか」と反論し、「黄泉国神話の主題は、生と死の対照・相克にある、と考えてよいであろう」と述べて、神話学者の松本信広氏が紹介している“ニュージ―ランドのマオリ族の話”を挙げている。

 また、井上氏は「出雲神話」について否定的です。記紀に書かれている所謂「出雲神話」は、出雲が舞台となっているからそう呼ばれているのですが、『出雲国風土記』には出てこない伝承が多いのが事実です。
*出雲神話について―わたくしは「出雲神話」ということばが適切であるとは思わない。天地創造から天孫降臨にいたる物語の作者の構想は、この部分にも丹念におよんでおり、出雲神話が、全体として出雲地方の民間伝承であるなどとは考えられないからである。
 この意見には私も同感で、現代人が文学的立場で「出雲神話」を本や絵本にしたり、地域の観光の一環で「ゆかりの地」として神話にまつわるものを造り出していること、また多くの人がそれを信じている事に違和感を感じたりします。

 井上氏の記紀の日本神話の分析は、観念的にならずに淡々とすすみます。
コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« a fledgling | トップ | urban summer »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ancient history」カテゴリの最新記事