邦画ブラボー

おすすめ邦画(日本映画)のブログ。アイウエオ順(●印)とジャンル分け(★印)の両方で記事検索可能!歌舞伎、ドラマ感想も。

「忠臣蔵外伝・四谷怪談」

2005年01月14日 | ★ぐっとくる時代劇
大都市には魔物が棲んでいるという。

元禄の江戸にはびこる「魔」を描いた、
面白くないわけが無い、深作娯楽時代劇。
表と裏、忠臣蔵と四谷怪談を合わせた物語、
再見。開き直って忠臣蔵三昧。

佐藤浩市は歌舞伎でいうところの
「色悪」の役どころ(民谷伊右衛門)にぴたりとはまっている。
父(近藤正臣)の後を継ぎ、琵琶を弾いて
なんとか生計をたてているが・・
伊右衛門は48人目の浪士になるはずだった!という設定。

お岩にはこの作品で女を上げた、高岡早紀。
その肢体の美しさは衆人の目を釘付けに・・
そしてここでのお岩は従来のじめじめした女では無い。
変わり果てた自分の顔を鏡で見て、「何これ~!」

浅野内匠頭に真田広之。
松の廊下で大暴れした挙句、
あっさりサバサバと切腹。

津川雅彦の大石内蔵助は現実的でドライである。
「47人の死神に勝てる敵はいない。私達は勝つ!
世間は我らを褒め称えるだろう!」
そして同士を捨て気ままに生きようとする伊右衛門を
「可哀相に・・気の毒な男だ」・・・と、言う。
動揺する伊右衛門!

そんな脚本を書いたのは「マツケン忠臣蔵」も手がけた古田求と
深作欣二。

赤穂浪士は「勝ち組」!だった。
らしい。

伊右衛門にひとめ惚れするお梅姫(荻野目慶子)、
おつきの女中(渡辺えり子)、
お梅の祖父(石橋蓮司)の妖怪のようなケレン味が楽しい。
清水一角(蟹江敬三)も真っ青に塗った顔で怪演技みせてくれてます。

音楽にはマーラーの「交響曲第1番」、
オルフの「カルミナ・ブルーナ」が使われていて
ドラマチックな効果をあげていた。

お岩の服毒、それを見守る宅悦(六平直政)、
お梅の狂乱の舞、仇討ち決意式での曽我兄弟仇討ちの舞を
たたみこむように合わせる場面には興奮。

吉良には田村高広。
すこしの出番でも見せる、聞かせる名優の芝居。
こんな人が出ると作品の格がぐっと上がる。

派手な大騒ぎの最後にはしんみりさせられた。

死んでしまって、垢にまみれた世俗から解き放たれると
人間の魂は浄化されるのだろうか。

諸行無常。

深深と降る雪の中に琵琶の音だけが響く。

1994年  深作欣二監督作品 松竹

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「四十七人の刺客」

2005年01月12日 | ★ぐっとくる時代劇
四十七人と聞いて、
3秒以内にぴんとくるあなたも私も日本人。

新しい角度で撮られた大石内蔵助、忠臣蔵。
大石がなんと高倉健

全編荒い息づかいが満ちている男臭い、
男の匂いムンムンする
男の!
(しつこいでしょうか?)「忠臣蔵」だ!

浅野内匠頭(橋爪淳)が切腹させられ、
吉良(西村晃)は放免されたことを聞いて
大石は激しい怒りを幕府、上杉に向ける。
そしてあらゆる手を使ってでも上杉の面子をぶっつぶす!と吼えるのだった。

これはもう戦争。

光と影のバランスが絶妙なシャープな画像。
吉良邸はまるで忍者屋敷のように仕掛けがめぐらされている。
立派な池がある日本庭園のかわりに大迷路、そして水壕。

討ち入りの前に健さん大石は
「これから我らは吉良を殺す!」と、
獅子のように咆哮。

おなかにドンと響く重さ。高倉健の凄さを見た!

陣羽織ではなく黒尽くめのいでたちは「影の軍団」?
それとも「忍びの者」か?
と、思わせるスタイリッシュさであった。
お決まりの「陣太鼓」、無し。

石坂浩二の思いっきり悪役・柳沢吉保、
そして上杉藩江戸家老・色部又四郎・中井貴一の、
これ以上は力めないほどの熱演、特異なメーキャップも必見。
大狸の千坂兵部には森繁久弥。

乾いたサスペンスタッチの進行。
無機的な効果音の合間に、刀が風を切る音が響く。

この「忠臣蔵」には涙は無い。非情な男の戦。
西村晃の命乞いもはねつけ、冷酷なゴルゴ・・の、
じゃなく、大石の刃が光る!

「りく」の浅丘ルリ子、黒木瞳、女性たちも美しい。
宮沢リエの「かる」がふっくらほっぺで可愛らしい。
市川監督は女優の持ち味、美しさを出すのがうまい。

尾上丑之助(現・菊之助)が健気で端正なたたずまいの大石主税を演じ、
ぴかっと光っていた。

他に岩城滉一 宇崎竜童、山本学、中村敦夫、松村達雄、石橋蓮司など。

1994年 市川崑 東宝

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「阿修羅のごとく」

2005年01月08日 | ★人生色々な映画
***阿修羅とは、表面的には、仁義礼智信を揚げるかに見えるものの、
内には猜疑心が強く、互いに事実を曲げまたいつわって他人の悪口を言い合い、
言い争いの象徴とされるインド民間信仰上の神の事。****

向田邦子原作の小説
森田芳光監督が映画化。

人から見ると幸せそのもののような家庭でも、何かしら問題を抱えている。
仲がよさそうな家族にも実は裏の顔がある。

仲代達矢演じる70歳になる父親にはなんと愛人と子供までいた!
それを知った4姉妹はあわてふためくが、
おっとりした優しい母(八千草薫)にだけは秘密にしていようと約束しあう。
だが姉妹にもそれぞれ人にはいえない秘密があった・・・

向田邦子は人間の心のひだを丁寧に描く。
姉妹の間にも複雑な感情が見え隠れ。
互いを妬んだり、争ったり、憎んだり。
作家の目のぐさりと鋭いことに驚く。
だけどその根底には家族、家庭への暖かい思い、優しさがあると思う。

長女の大竹しのぶは妻(桃井かおり)ある男(坂東三津五郎)と不倫関係にある。
本妻桃井かおりが大竹の家に乗り込んでくるシーンが面白い。

名女優のガチンコ勝負!

ばちばち火花が散っていたと思ったら、初共演だとか。
あわてて飛び出してくる坂東三津五郎。
深刻なのに笑わせる三角関係。

設定が昭和54年ということで、懐かしい風景もちらちら。
暮れの白菜漬けとか、正月の様子など・・
全体に漂う空気がどこかしらふんわりと暖かい。
懐かしいあれこれを探すのも、向田作品を鑑賞する楽しみでもある。

冬、お正月あたりになるとなぜか遠い昔の日々が恋しくなる。
幼い日家族ですごした思い出が、傷だらけの心?にもよぎるのか。

そんな季節に放送される久世光彦演出、黒柳徹子ナレーションの
向田ドラマにも根強いファンが多い。

仲代達矢が病院で、意識の無い妻に向かい、
「ふられちゃったよ、ははは。ふられて戻ってきちゃったよ。」
といって泣くシーンにじんときた。

2女に黒木瞳、3女に深津絵里、4女に深田恭子。
他の男性陣に小林薫、中村獅童など。

この世は阿修羅だらけ・・でも愛しい。

2003年 森田芳光監督作品

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「いのちぼうにふろう物語」(舞台版)

2005年01月06日 | ★ぐっとくる時代劇
仲代達矢主催・無名塾の「いのちぼうにふろう物語」初日観劇。

東京芸術劇場は老若男女の観客でぎっしりうまっていた。

小林正樹監督の映画「いのちぼうにふろう」は見たが演劇版は初めて。
去年の夏にポスターを見て、絶対に見に行こうと決めていた。

7年ぶりの再演。
原作は山本周五郎の「深川安楽亭」
脚本は仲代達矢のよきパートナーでもあった
故仲代夫人(隆巴)の遺作になるそうだ。

映画では中村翫右衛門 が演じた、
はぐれものが集まる江戸深川にある「安楽亭」の主人役を仲代が。

要塞のような安楽亭の堅牢なセット。
若い塾生のパワーがはじけていた。
仲代達矢のパワーはそれに負けずにはじけていた。

2時間45分という長さも感じさせず、後半は一気にたたみこむ。
ラストの大捕り物シーンは心に残る名場面。
映画にも登場していた山本圭が特別出演。

仲代と山本圭の独白シーンは緊張感を伴う。
周五郎作品はシナリオ化するのが難しいと
隆巴は言っていたそうだ。

名台詞が沢山あった。

「今度だけはうまくいかしてやりてぇもんだ。
あいつらが、生まれてはじめて人のために何かしようと思いたったんだからなあ。」

川本三郎曰く、「ならず者の純情」の物語・・・・

若いスターも次々生まれてきて欲しい。
しんみりして劇場を出て気がついたら夜10時を回っていた。

江戸深川から東京・池袋の夜へ。

2005年1月5日(水)~12日(水)
東京芸術劇場にて

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「ある映画監督の生涯 溝口健二の記録」

2005年01月02日 | ★人生色々な映画
溝口健二とその作品にかかわった39人の映画人からのインタビューと、
病に倒れ撮れなかった「大阪物語」までの作品を紹介している。

「雨月物語」「祇園囃子」「西鶴一代女」
「お遊さま」「近松物語」「赤線地帯」など
日本映画史上に燦然と輝く名作たち・・

それらは、溝口の芸術へのあくなき挑戦と執念、
そしてカメラ・宮川一夫(上品!)らの最優秀スタッフ、
森雅之や京マチ子ら不世出の俳優たち、
すべてが結集した宝石のような作品たちなのだった。

新藤のインタビューは溝口の私生活をも探ろうと、
周辺の人々にも及んでいた。
執拗に病院まで押しかけて話をとろうとする姿勢には
やりすぎだと感じた。

再三噂になっていた田中絹代との関係については
本人に単刀直入に聞いていて、田中絹代もズバリ答えていたのが面白かった。
この記録映画における田中のウエイトはとても重かったのが印象的。

映画「映画女優」では吉永小百合が田中絹代を演じて、
溝口に対決するように演技に燃えて女優として開眼する様子が描かれていた。

菅原文太が溝口というのはイメージに合わなかったけど。
田中絹代という人は実に明確にきっぱりと話をされる方で驚いた。

その正反対が入江たか子。
撮影の途中で降ろされた事件があったらしい。
溝口が「化け猫ばっかりやってるからそんな演技しか出来ないんだ」と
言ったとか言わなかったとか・・
このインタビューでは化け猫のように撮られていた!気の毒!

俳優陣では他に若尾文子、京マチ子、中村鴈治郎、進藤英太郎、
木暮実千代、小沢栄太郎、浦辺粂子など。

甲斐庄楠音のインタビューがあるというので楽しみにしていたのだが、
ほんの3分ほどだった!甲斐庄が溝口のイメージにあった着物を調達し、
着付けも全部やったとか。
極彩色の絵の具と絵に囲まれた、柔らかな物腰の老人でした。

見るにつれ、完璧な溝口組の仕事が浮かび上がってくる。
溝口の情熱もさることながらこのドキュメンタリーに登場した
すべての人たちの映画に対する熱意と誇りに打たれた。

インタビューの場所はアパートの前だったり、自宅の庭先だったり、まちまち。
皆さん現役は引退し、決してもう若くはない。
だが映画のことを語る目はぴかりと光る。

語る人の目に涙が浮かんでいるのを見て、
溝口健二という人の人間性にも触れたような気がした。

見ごたえがある映画でした。

完成していたら間違いなく代表作になっていただろうという
「大阪物語」が溝口監督の手で見られないのが悔しい。

1975年 新藤兼人監督作品 
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