穴村久の書評ブログ

漫才哲学師(非国家資格)による小説と哲学書の書評ならびに試小説。新連載「失われし時を求めて」

宇宙の拾い物(1)二十本の足を持つ生物  

2021-12-08 09:20:17 | 小説みたいなもの

  宇宙哨戒艇ビーグル777号は太陽系の冥王星近くで発信された電波を受信した。意味は不明だが狂ったように同一の信号を送ってきた。電文の意味は解析不可能だった。そして電波は数時間後に途絶えたのである。
太陽系の惑星にはある程度発達した知能を持つ生命体が存在するのではないかと言われており、乗組員の中には切羽詰まったような発信から救難信号ではないか、と推測するものもいた。哨戒艇が割り出した発信源までは半日くらいの行程と分かったので、そちらに向かうことにした。もしそれが未知の生物からの救難信号であれば、救助を試みることにしたのである。
「発信源はあの星らしいですね。かなり大きい」
探知機を操作していた乗り組員が報告した。
「表面に何か見えるか」
「荒れ果てた岩石ばかりのようですね。待ってください。金属があるらしい。反射してきましたよ」
「もっと高度を下げろ」と艇長は命じた。
やがてレーダーの画像に九の字に折れ曲がった物体が見えてきた。かなり大きい。「何らかの飛行物体が着陸を試みたんでしょうが、クラッシュしたらしい。胴体が二つに割れている」
「生命反応は」
「全くありません」
「乗組員の姿はあるか」
「分かりません」
「それでは注意して着陸して調べよう」と艇長は命令した。
宇宙艇が着地すると、艇長は「完全武装をしろ、何がいるのかわからないからな、念のためだ。大気はあるか」
ありますと隊員が復命した。
「温度は?」
「相当に低い。摂氏零下80度から90度です。それにかなりの強風が吹いている」
「よし、それでは第一種完全武装で武器も携行しろ。まず三人(たこ)が先行して斥候にでる。戦車を下ろして乗って行け。はしご車も出せ。一時間したら戻ってこい」と三人を指名した。
 未知の惑星の地表に下りた斥候隊は遭難現場に向かった。あたり一面は赤茶けた岩石のみで植物は全くない。動物などの生命も見えない。外気は摂氏零下七十度で風速二十メートルの風が巻いたように吹いてくる。一行が問題の墜落物体に着くまでに乗員らしい姿は見えない。近づくと全長百メートル近い胴体は大きく二つに折れている。また、下部は衝撃でひどく破損している。破損した開口部からは縄梯子が風にあおられてぶら下がっている。
「生存者がいるかもしれませんね。はしごを下ろして外部に脱出したのかもしれない」
「付近を捜索しますか」
「そうだな、しかしまず内部に生存者がいないか確認しよう」
捜索の一部始終は携帯カメラで宇宙艇にリアルタイムで送られていた。斥候隊長は艇長の許可を求めた。
「注意してやれよ」
同行した作業車からするすると伸びたはしごは十メートルほどの高さの破損した胴体の開口部に達した。用心しながら機体の内部に入った隊員たちは捜索を始めた。前部と思われる操縦用の操作盤機器に囲まれたコックピットと思われるところで生物だったと思われる物体を見つけた。子細に観察すると、絶命しているようだった。
「なんだろう、妙な動物だな。それは薄い着衣しかまとっていない。よほど緊急な事態だったのだろう。防護服を着用する暇もなかったようだ。
「妙なからだだな」とある隊員は呟いた。脚が四本ある。おいおい足の先が五本に分かれているぜ」驚いたように叫んだ。「と言うことは足が二十本あるということか」
「俺たちよりか十二本多いんだな。こんな生物のことは聞いたことが無い」
「絶命した奇妙な生物を操縦席と思われる席で見つけました。どうしましょうか、運び出しますか」と艇長に無線で問いかけた。
「そうだな、それは後にしろ。船内にほかに乗員がいないかまず調べてくれ。それから墜落原因だな。機体の破損状況からわからないか。内部の故障か、不具合なのか。あるいは外部からの隕石などの衝突なのか。機体の内外の破損状況を把握してくれ」
「わかりました」
「それから機体内部の調査が終わったら外部周辺に搭乗者がいないか確認することだ。縄梯子を使った形跡があるから、それで脱出した生存者が周辺で見つかるかもしれない。待てよ、それは第二次捜索隊を派遣してやらせよう。とりあえず機体内部の乗員の捜索をしてくれ。後は次の捜索隊にやらせる」
「了解しました」
続く



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