穴村久の書評ブログ

漫才哲学師(非国家資格)による小説と哲学書の書評ならびに試小説。新連載「失われし時を求めて」

24:「相手は何なの」とレンコン女史は聞いた

2021-02-12 13:37:32 | 小説みたいなもの

 続いて質問に立ったのは立身出世党のレンコン女史である。モデル上がりのすらりとした長身を白いスーツで決めた彼女は開口一番「相手は何なんですか」と首相をにらみつけた。うつらうつら昼飯のカツカレーの消化を始めていた井伊首相はびっくりしたように女史を無邪気な目で不思議そうに見あげた。

「相手は誰なんですか、と聞いたほうがよかったかもね。人間なんですか。それとも独自に進化した霊長類のたぐいですか。宇宙船に乗っているのは」と決めつけた。

議長が「内閣総理大臣」と促した。

井伊首相は横の席に視線を振った。

議長が「嘉藤官房長官」と気を利かせて指名した。

「あたしは首相に聞いているんですよ」とレンコン女史はどすを効かせた。

かまわずに席を立った官房長官はマイクに向かい、「それは申し上げられません」と木で鼻を括ったようにそっけなくあしらったのである。

逆上して毛を逆立てたレンコン女史は「議長、官房長官に懲罰動議を提出いたします」と議長席に詰め寄った。つれて野党のもみ合い専門要員の新米議員たちが議長席を取り巻いて議長を恫喝する。負けじと与党側の闘争要員が議長席に駆けつけた。

もみ合いはしばらく続き与野党の幹部議員が別室で協議した結果、30分後に委員会は再開した。議長は「改めて答弁を求めます。丁寧な説明をお願います」と求めた。

官房長官は再びマイクの前に立った。野党席からは「お前に聞いているじゃないよ」とヤジが飛んだ。

「えー、この宇宙人といいますか、なんといいますかは察するところ高い知能を持っております」

「コミュニケーションが取れるということですか」

「左様でございます」と馬鹿丁寧にかつ簡潔に官房長官は答えた。

「興味深いですね、どういう風に意思疎通をするのですか。会話ですか、文書を交換するのですか」

「両方とも可能です」

「何語で会話するの、英語ですか」とレンコン女史は間抜けな質問をした。

「日本語が通じます」

委員会室はおおとびっくりした声がこだました。

「彼らはどこで日本語を覚えたのかしら」といまや官房長官のペースに載せられた彼女は間抜けな質問をした。

「さあ、知りません。会話に支障がなければそんなことを詮索しても始まりません」と彼は相手を諭すように語ったのであった。

 



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