羊に食わせようと段ボールに入れていたなかからタイトル本を引っ張り出した。前回「幻の女」が一応再読に耐えたので、何かほかにあったかな、というわけ。ちなみに、コーネル・ウールリッチはウィリアム・アイリシュの別ペンネーム。
例によって巻末の解説氏を読むと、幻の女がベストだが、ウールリッチ名義の作品では本書がベストだそうだ。また、全作品を通しても黒衣の天使を幻の女の上に置く人も多い、とある。
ところが200ページあたりで読めなくなった。例の手を使いだしたからだ。彼の手なのだろう。エピソードのビーズ玉で引っ張っていこうというのだ。幻の女もそうだったが、まだ被疑者の供述と捜査のギャップを埋めていこうと言うのでエピソードもそれぞれ目先が変わっていて最後までだまされて読んだ。
ところが黒衣の天使はアンコの部分をこれだけで引っ張っていこうという意図が明白、しかも被害者のアドレスブックにある名前に次つぎとコンタクトしていうというメリハリのないパターン。これじゃ途中で放り出す。前回読んだ時も辟易したらしくそんな注が書きこんであった。
両書ともだが、出だしはうまい。70ページほどまでは幻の女より上かもしれない。ここだけとれば両書は甲乙つけがたい。
似たエピソードを挟んで紙員を稼ぐのは作家の常とう手段ではある。チャンドラーのロンググッドバイにもあるが、程度問題である。審美眼の問題といってもいい。
最初の70-100ページ当たりのレベルが最後まで保てれば両書とも素晴らしい作品になっただろう。
彼の弁護のために付け加えれば、個々のエピソードのサスペンスの盛り上げ方はうまい。短編で完結していればそれでいいが、クライマックスを、つまり同じ高さのだが、いくつも続けるのは逆効果である。
短時間の間に排出(小用だが)を繰り返すのはかえって興ざめなものである。
& 一晩に13回もした、青春の思い出だ、なんて威張っても、種馬じゃあるまいし、面白い話ではない。
それもエピソードの間に工夫があって口直しでも入っていればまだなんとか格好がつくのだろうが、こうベタで並列されるとね。感興が湧出されるヒマがない。