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福井晴敏著『6ステイン』講談社文庫 2007.4.13文庫化 781円+tax
6篇からなる短編集。
1. いまできる最善のこと(The best thing for now)
2. 畳算( She said “Don’t fail for me”)
3. サクラ(SAKURA)
4. 媽媽( A mother heads into the wilderness)
5. 断ち切る( An old man also heads into the wilderness)
6. 920を待ちながら( Waiting for 920)
単に「市ヶ谷」と呼ばれる“防衛庁情報局”。全ての作品がこの関係者である。つくづく福井晴敏という作家はこの「市ヶ谷」がお好きのようだ。
「市ヶ谷」に属し本編に登場する主人公、または相手方には次のような立場の男女がいる。
APと呼ばれる“警察補助官”。日頃はなんらかの“正業”に就き、呼び出しを受ければ直ちに連絡を取り正局員である担当仕官の指揮下に入る。
SOFと略称される“特殊要撃部隊”はレンジャー隊員以上の厳しい選考基準で猛訓練
を通過した戦闘のプロ。
そして“防衛庁情報局”の正規職員。
それぞれ短編ながらもより凝縮されたストーリー展開で読者をして息もつかせずに読ませるのであるが、なかでも印象的な場面は「媽媽」での夜遅く帰宅した主人公(正局員)が母親として台所の床を油で汚した息子を叱りつけていた時のシーン。
本部からの呼び出しが入るやいなや帰宅した途端のまだ温もりがある靴をひっかけながらハンドバックの中の“グロック19自動拳銃”を確かめ初弾を装填し安全装置をかけるくだり。日常ありえない光景だ。
そんな彼女の職務と家庭の狭間で揺れ動く心の葛藤が生々しく描かれ、それがなんとも痛ましい。
彼女は次の「断ち切る」にも登場し、自ら定めた規範(というよりも“情念”と言ったほうがよいかも)にあくまでも忠実に自己を従わせる姿に感動する。
圧巻は最後の「920を待ちながら」だ。のっけから市ヶ谷内部のゴタゴタが丁々発止の諜報戦の様相を呈し、何が真実で誰が裏切るのか全く分からない状況が作り出される。
そして驚愕の終焉が待っている。更なるサプライズが用意されているのだが、これは福井晴敏ファンならば「あっ!」と驚き、かつ瞬間的に思わず頬が緩む仕掛けになっている。
福井晴敏は長編で圧倒的な筆力でもってして、読者をぐいぐい引っ張って行くタイプだと先入観を持っていたのだが、短編においてもキラリと光った才能を十分見せてくれた。
「市ヶ谷」ファンは必読の短編集だ。
(蛇足)
タイトルの英語版がなかなか冴えているのでは。
6篇からなる短編集。
1. いまできる最善のこと(The best thing for now)
2. 畳算( She said “Don’t fail for me”)
3. サクラ(SAKURA)
4. 媽媽( A mother heads into the wilderness)
5. 断ち切る( An old man also heads into the wilderness)
6. 920を待ちながら( Waiting for 920)
単に「市ヶ谷」と呼ばれる“防衛庁情報局”。全ての作品がこの関係者である。つくづく福井晴敏という作家はこの「市ヶ谷」がお好きのようだ。
「市ヶ谷」に属し本編に登場する主人公、または相手方には次のような立場の男女がいる。
APと呼ばれる“警察補助官”。日頃はなんらかの“正業”に就き、呼び出しを受ければ直ちに連絡を取り正局員である担当仕官の指揮下に入る。
SOFと略称される“特殊要撃部隊”はレンジャー隊員以上の厳しい選考基準で猛訓練
を通過した戦闘のプロ。
そして“防衛庁情報局”の正規職員。
それぞれ短編ながらもより凝縮されたストーリー展開で読者をして息もつかせずに読ませるのであるが、なかでも印象的な場面は「媽媽」での夜遅く帰宅した主人公(正局員)が母親として台所の床を油で汚した息子を叱りつけていた時のシーン。
本部からの呼び出しが入るやいなや帰宅した途端のまだ温もりがある靴をひっかけながらハンドバックの中の“グロック19自動拳銃”を確かめ初弾を装填し安全装置をかけるくだり。日常ありえない光景だ。
そんな彼女の職務と家庭の狭間で揺れ動く心の葛藤が生々しく描かれ、それがなんとも痛ましい。
彼女は次の「断ち切る」にも登場し、自ら定めた規範(というよりも“情念”と言ったほうがよいかも)にあくまでも忠実に自己を従わせる姿に感動する。
圧巻は最後の「920を待ちながら」だ。のっけから市ヶ谷内部のゴタゴタが丁々発止の諜報戦の様相を呈し、何が真実で誰が裏切るのか全く分からない状況が作り出される。
そして驚愕の終焉が待っている。更なるサプライズが用意されているのだが、これは福井晴敏ファンならば「あっ!」と驚き、かつ瞬間的に思わず頬が緩む仕掛けになっている。
福井晴敏は長編で圧倒的な筆力でもってして、読者をぐいぐい引っ張って行くタイプだと先入観を持っていたのだが、短編においてもキラリと光った才能を十分見せてくれた。
「市ヶ谷」ファンは必読の短編集だ。
(蛇足)
タイトルの英語版がなかなか冴えているのでは。
本日読み終えましたが、なかなかでしたね。組織の歪みの中で個人の尊厳をいかに保つか、あまりしつこくなるとちょっと鼻につきますが、総じて期待していた以上でした。スリの爺さんや、母親とAPの二役に悩む女性など、意外なキャラも結構うまく描けていました。