min-minの読書メモ

冒険小説を主体に読書してますがその他ジャンルでも読んだ本を紹介します。最近、気に入った映画やDVDの感想も載せてます。

古川日出男著『アラビアの夜の種族 Ⅰ、Ⅱ、Ⅲ』

2015-05-05 11:07:45 | 「ハ行」の作家
古川日出男著『アラビアの夜の種族 Ⅰ、Ⅱ、Ⅲ』角川文庫 2006.7.25 第1刷 



古川日出男氏の著作で読んだ作品は以前「ベルカ吠えないのか」ただ一作のみであった。実はこの時点で本来読むべき作品はまさしく本書「アラビアの夜の種族」であるべきものと確信していた。
だが、おそるおそる手にした「ベルカ吠えないのか」を読んでぶったまげてのけぞったものであった。以来、本書を読むべく機会を探っていたのであるついに時期到来と相成った次第。
ところが読み始めてから時間のかかることかかること。実に3巻を読むのに一か月以上を要したのでは。したがってこの間の本ブログも更新されることは無かったわけだ。
この「アラビアの夜の種族」であるがきっと元本があるのではないかと思っていたがあとがきで作者が語っている。サウジアラビアの古本屋で見つけたとのこと。英語版で著者名はない。
皆さんは「千一夜物語」(アラビアンナイト)はよくご存じだと思う。女性不信に陥った王様から命を守るためにシエラザードが夜ごと語る世にも奇妙な面白い話を語って命拾いしただけではなく、夜伽の女性を朝には殺すという王様の悪習を見事に断った有名な物語だ。
今回の「アラビアの夜の種族」はその執筆目的が格段に意義が高く設定されている。それはこの本が「災厄の書」と呼ばれ、一国の運命をも決定づけるものと言われた。
時はヒジュラ暦の1213年。西暦の1798年、ナポレオン・ボナパルトは3万の兵士を艦船に乗せエジプトのカイロを目指していた。厄災を与え滅ぼさんとする相手はナポレオンであったのだ。
ここでエジプト側が取った手段というのが、ボナパルトがカイロを蹂躙する以前にこの「厄災の書」をなんとか作り上げボナパルトに届けるという計画であった。
エジプトを司る統治者の一人の支配階級奴隷であったアイユーブは一人のアラビア語書家とその助手を用意し、語り部であるズームルッドを夜ごと招き、ここに世にも稀なる物語が18夜に渡って語られたのであった。
第一部に登場する主人公は醜悪な面をしたアーダム。読者はいきなり彼の行動に振り回され最後には驚愕のあまりのけぞるほど。蛇神のジンニーアに魅せられたアーダムは自身が黄泉の国の魔王となる。
第二部は見目麗しい王様の嫡男として生まれたサフィアーンの数奇な運命の物語。さらに第三部に登場するのはアルビノとして生まれた美貌の快男児ファラー。
この三者が地下帝国の魔宮で時空を超えて邂逅することになる。この戦いは18世紀の「幻魔大戦」ともいえる人類の想像を超えた戦いが繰り広げられる。その壮絶な戦いの果てにどのような結末が待っているのか!?

ところでナポレオンはアラビア語を理解したのであろうか?

いつもだと冒頭部でおすすめ度を期すのであるが、これはちょっとさすがに記しがたい。この稀代の書は自分にとってはとてつもなく面白いと思うのだがけっして他人様におすすめしたい作品とは言えない。