吉村龍一著『光る牙』講談社 2013.3.6 第1刷
1,500円+tax
おススメ度:★★★★★
近年、北海道に棲息する羆が人間を襲ったという事件の中で記憶に残るのは“福岡大学ワンゲル部”の5人のパーティーが日高山系の山の中で襲われ、内3人が犠牲になった事件だろう。
これは1970年の夏に起こった事件で、彼らを襲ったクマは4歳の雌熊で、最初は彼らのリュックから食料を狙ったものであったが、幾度も彼らの周りを徘徊し、恐怖にとらわれ逃げ出した彼らの後を追いひとりひとり倒していったもので、彼らの肉を食すわけでもなく全員の局部を食いちぎっていたという。
数あるヒグマの襲撃事件の中でもその執拗さ、残忍さは群を抜いており、4歳にして未経産であったという個体に何かあったのであろうか。
北海道の羆で大きなものは体重300kgにも達し、後ろ脚2本で立ちあがった身長は3m以上とも言われる。放牧された馬を襲った例では、一撃で馬の首を吹っ飛ばしたといわれる。本州にいる月の輪熊とは個体の大きさは比較にならぬほど大型でその気性も荒い。
学生の時、動物学の教授によれば北海道の羆は現在カムチャッカに棲息するロシアのクマと同類で、北海道が大陸から切り離された時点で北海道に隔離された形となり、狭くなったテリトリィの中で幾代も経過するうちにより凶暴さが増した可能性がある、とのこと。
本作に登場する羆は体重が500kg、身長は4mを超えるという、本来の羆の最大個体に匹敵するものである。
この羆は人間の身勝手な、そして違法な罠によって片手手首を失った、そしてもうひとつの理由(これはネタバレになるので書くわけにはいかないが)によって人間への限りない憎悪そして復讐の念に燃えた巨大なバケモノであった。
こんなモンスターと対峙する森林保護管の二人の描写が素晴らしい。特に主人公孝也の上司山崎の存在がこの物語に一層の厚みを加えている。
北海道日高山中で繰り広げられる二人の森林保護管と白いモンスターの戦いはページをくくる手を決して止めないであろう。
著者吉村氏はデビュー作「焔火」に続いて本作で2作品目を上梓したわけだが、その筆致は格段に力を加え、構成も見事である。これから大いに期待したい作家である。
1,500円+tax
おススメ度:★★★★★
近年、北海道に棲息する羆が人間を襲ったという事件の中で記憶に残るのは“福岡大学ワンゲル部”の5人のパーティーが日高山系の山の中で襲われ、内3人が犠牲になった事件だろう。
これは1970年の夏に起こった事件で、彼らを襲ったクマは4歳の雌熊で、最初は彼らのリュックから食料を狙ったものであったが、幾度も彼らの周りを徘徊し、恐怖にとらわれ逃げ出した彼らの後を追いひとりひとり倒していったもので、彼らの肉を食すわけでもなく全員の局部を食いちぎっていたという。
数あるヒグマの襲撃事件の中でもその執拗さ、残忍さは群を抜いており、4歳にして未経産であったという個体に何かあったのであろうか。
北海道の羆で大きなものは体重300kgにも達し、後ろ脚2本で立ちあがった身長は3m以上とも言われる。放牧された馬を襲った例では、一撃で馬の首を吹っ飛ばしたといわれる。本州にいる月の輪熊とは個体の大きさは比較にならぬほど大型でその気性も荒い。
学生の時、動物学の教授によれば北海道の羆は現在カムチャッカに棲息するロシアのクマと同類で、北海道が大陸から切り離された時点で北海道に隔離された形となり、狭くなったテリトリィの中で幾代も経過するうちにより凶暴さが増した可能性がある、とのこと。
本作に登場する羆は体重が500kg、身長は4mを超えるという、本来の羆の最大個体に匹敵するものである。
この羆は人間の身勝手な、そして違法な罠によって片手手首を失った、そしてもうひとつの理由(これはネタバレになるので書くわけにはいかないが)によって人間への限りない憎悪そして復讐の念に燃えた巨大なバケモノであった。
こんなモンスターと対峙する森林保護管の二人の描写が素晴らしい。特に主人公孝也の上司山崎の存在がこの物語に一層の厚みを加えている。
北海道日高山中で繰り広げられる二人の森林保護管と白いモンスターの戦いはページをくくる手を決して止めないであろう。
著者吉村氏はデビュー作「焔火」に続いて本作で2作品目を上梓したわけだが、その筆致は格段に力を加え、構成も見事である。これから大いに期待したい作家である。