min-minの読書メモ

冒険小説を主体に読書してますがその他ジャンルでも読んだ本を紹介します。最近、気に入った映画やDVDの感想も載せてます。

コーディ・マクファーディン著『戦慄 上・下』

2010-11-11 19:53:34 | 「マ行」の作家
コーディ・マクファーディン著『戦慄 上・下』(原題:The Face of Death)ヴィレッジブックス 2007.11.20初版 

オススメ度:★★★★★

FBI特別捜査官スモーキー・バレットシリーズの第二弾。
前作「傷跡」で心も身体もズタズタに傷ついたスモーキーは殺害された親友の愛娘ボニーを結局引き取った。事件後全く口をきかなくなったボニーではあるが、ボニーの存在が今のスモーキーを支えていると言っても過言ではなかった。
もちろんボニーにとってもスモーキーはなくてはならない存在であった。
二人は過去の忌まわしい記憶を乗り越えて何とか前向きに生きようと努力をしていた。
そんな時、スモーキーの携帯電話に入ってきた事件は戦慄すべき事件発生の予感を持たせるには十分すぎるものであった。
16才の美少女が自らの頭部に拳銃をつきつけ、スモーキーを名指しで呼んでいるというのだ。更に彼女のそばには殺害され腸を抜かれた血みどろの両親が死体となっている。
一体、何が起きているのか?スモーキーは部下のキャリーと共に現場へ急行するのだが、これはその後起きる事件の端緒にすぎなかった。

人間はいったいどこまで残虐になれるのか?を読者に問う著者の発想は我々の想像を簡単に飛び越えてしまう。
悪魔でも(我々が知り得る通常の悪魔?)ここまでしないだろう、と思われるほどの残虐さで、要は肉体的な残酷さに加え徹底的に人間の魂を焼き尽くすような残虐さは、かってどのような映画でも小説でも経験した例がない。
犯人像が全く見えてこない。犯人の目的は?動機は?どんな人物像?ほとんど霧の中だ。
作品中、被害者の美少女サラの手記がその手掛かりを与えてくれるのだが、この日記の内容そして使われ方がなんとも効果的なのである。
これほど残虐なホラー・ミステリーでありながら読後感にカタルシスがあるのは、残虐さに対抗するように描かれるスモーキーたちの人への“思いやり”と“やさしさ”のせいであろう。
著者の執筆テーマではなかろうが、本作を読むにつれキリスト教というものが、実は神の敬虔な愛の裏側には“憎悪”と“復讐”が歴然と存在するということに気づかされる。
仏教的な“慈悲”の世界に多少でも触れることが出来る我々の世界とは大きな隔たりがある。
著者は前述のスモーキーと仲間たちの“思いやり”と“やさしさ”で何とか打ち勝とうとするのであるが、やはり儚さを感じざるを得ない。
新人の第二作目はなかなか第一作目を超えられないものと相場は決まっているが、これは珍しくも例外的作品である。著者のコーディ・マクファーディンは類稀な本物の実力派ミステリー作家と言えるだろう。