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江戸の人情噺かと思いきや『まるまるの毬』by西條奈加

2021年02月28日 | 小説レビュー

『まるまるの毬』by西條奈加


~親子三代で菓子を商う「南星屋」は、売り切れご免の繁盛店。武家の身分を捨てて職人となった治兵衛を主に、出戻り娘のお永とひと粒種の看板娘、お君が切り盛りするこの店には、他人に言えぬ秘密があった。愛嬌があふれ、揺るぎない人の心の温かさを描いた、読み味絶品の時代小説。吉川英治文学新人賞受賞作。「BOOK」データベースより

 

『心淋し川』で、【第164回直木賞】を受賞された西條奈加さんの作品です。この『まるまるの毬』も、僕の好きな「吉川英治文学新人賞」受賞作品(「隠蔽捜査」:今野 敏「夜のピクニック」:恩田 陸「アヒルと鴨のコインロッカー」:伊坂幸太郎、「ワイルド・ソウル」:垣根涼介 「パイロットフィッシュ」:大崎善生)と、数多くあり、レビューの評価も高い連作短編集です。

『心淋し川』の予約者数がとんでもない数だったので、同じ西條奈加さんの本作を借りてきました。

読み終えて、「あぁ~俺はやっぱり時代小説が好きやなぁ~」と、しみじみ思い直した作品でした。

江戸時代の日本人の心には、現代に生きる我々が失くしてしまった「心の美しさ」や「慎み深さ」がしっかりと根付いており、読んでいて心地よく清々しい気持ちになります。

西條さんの文体も丁寧な筆致で、情景描写やセリフが流れるように美しく、とても好感が持てます。

菓子職人である主人公の治兵衛、娘のお永、孫のお君との家族愛と、弟である五郎との兄弟愛、それから、ひとつの仕事に打ち込む職人の気概などが情感たっぷりに描かれており、こみ上げてくる場面もしばしば

それが一つの町内の人情物語にとどまることなく、将軍家の世継ぎ問題や、身分制度、大名家家臣の役割、老舗の暖簾などスケールの大きな話も展開するんですが、風呂敷を広げすぎることなく、治兵衛を中心に綺麗にまとまっており、読み手の興味を惹き続けてくれます。

そして最終的には「めでたしめでたし」という感じで大団円を迎え、「あぁ~いい小説を読んだね」と、ホッとする作品でした。

 

★★★☆3.5です。

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