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空中戦に酔い、車に酔った洋画初体験~空軍大戦略(1969年)

2014-07-05 | 映画

 皆さんは映画館で初めて見た洋画を覚えているだろうか。もちろんこの場合の洋画とは、親に連れられて見に行った子供向けの映画ではなく、一般向けのオトナが見る洋画のことである。ぼくは小学6年生の冬、友人と一緒に名古屋の映画館で見たのが洋画初体験だった。

 その映画は『空軍大戦略』と言う第二次大戦での英独による空の戦い『バトル・オブ・ブリテン』を描いた戦争映画だった。映画に誘ってくれたM君とぼくは元々航空機ファンで、特に第二次大戦で活躍した戦闘機が大好きだった。ぼくたちは当時、その時代の少年たちが一度はハマるプラモデルづくりに熱中していた。もちろん第二次大戦の航空機や戦車が中心なのだが、ただ組み立てるだけでは飽き足らず、『航空ファン』や『丸』という雑誌に載っている各国部隊の資料を参考に、改造やカラーリングを施して悦に入るかなりマニアックな小学生だった。そんなぼくたちにとって、実機によるメッサーシュミットとスピットファイアの壮絶な空中戦が売りのこの映画は、まさに見逃せない作品だったのだ。

 そもそもこの『空軍大戦略』は秋に公開されたばかりで、ぼくたちの町の映画館で上映されるのは来年の春、へたをすれば夏ころまで待たなければならない。そんな時、M君は彼のお兄さんが自動車で名古屋の映画館へこの作品を見に行くことを知り、ぼくたちが便乗できるよう頼んでくれたのだった。かくして生まれて初めて、それも自動車に乗って名古屋の映画館へ行けるとあって、ぼくは期待と興奮に胸を膨らませ、一日千秋の思いでその日を待っていた。

 待ちに待ったとある冬の日曜の朝(正確な月日は記憶にない)、クラスメイトのF君も加わった小学生3人組は、M君のお兄さんの自動車で名古屋駅前にある映画館へ向かった。この当時ぼくの家にはクルマが無く、自動車に乗ること自体が珍しかった。おまけに生まれて初めて名古屋という大都会へ映画を見に行くという、期待と緊張が入り混じった変な高揚感で胸は高まるばかりだった。

 名古屋で見た映画は期待通り、いやそれ以上の面白さだった。プラモや写真でしか見ることがない英独の航空機が、スクリーン上を飛び回る姿に我を忘れ、気がついたら2時間を超える上映時間はあっという間に終わっていた。実際にプラモで作ったドイツ空軍のメッサーシュミットB109やハインケルHe111、ユンカースJu87スツーカとイギリス空軍のスピットファイアやホーカーハリケーンが入り乱れての空中戦は、実写映像さながらの迫力で、航空機ファンの小学生にはまさしく夢のような時間だった。

 映画の後に売店でホットドッグというものを生まれて初めて食べた。ホットドッグはパンにソーセージとキャベツを挟み、ケチャップを塗って電子レンジでチンしたただけのシンプルなものだったのだが、ぼくにとっては電子レンジ自体見るのも初めてだった。それで調理されたホットドックの味は、今見終わったばかりの映画とともに、ぼくにとっては生涯忘れられないものになった。

 映画の興奮も冷めやらぬ帰り道、Fくんが車に酔ってしまい途中の最寄駅の近くで降りることになった。F君は車から降りると、ちょっと寂しそうなほっとした表情でぼくたちに手を振った。そのあと車に揺られながらぼくも少し気分が悪くなってきた。今思うと普段クルマに乗りなれていないぼくとF君は、免許取りたてのお兄さんの大胆な運転と、食べなれないホットドッグの相乗作用で、すっかり車酔いしてしまったのだ。ぼくはせっかく乗せてもらったM君とお兄さんに悪い気がして、何とか自宅まで我慢した。ともあれ、生まれて初めての映画館での洋画体験は、映画とクルマに酔ったエピソードとともに、小学生最後の思い出として今も心に刻まれている。

 

■空軍大戦略
 公開:1969年
 監督:ガイ・ハミルトン
 出演:マイケル・ケイン、ローレンス・オリヴィエ、スザンナ・ヨーク、クルト・ユルゲンス他

監督のガイ・ハミルトンは007シリーズが有名で、キャストも当時の一流どころをそろえている。 
CGの無い時代の映画なので、空中戦は実機を使ってリアルに描かれていて、本来の映画の良さが味わえる。
40年ぶりにブルーレイをレンタルして見たのだが、空中戦は今見ても迫力満点。特に最後の大空中戦のシーンで大空を舞うメッサーシュミットとスピットファイアの姿は、非情な戦場ということを忘れるくらい、優雅で美しい。
この映画の登場人物に主役はいない。主役は大空を飛び交う英独の戦闘機なので、特に第二次大戦の航空機好きにはたまらない作品。