かどの煙草屋までの旅 

路上散策で見つけた気になるものたち…
ちょっと昔の近代の風景に心惹かれます

旧矢橋亮吉邸洋館・南洋倶楽部(岐阜県大垣市)

2014-10-12 | 西濃の近代建築

今回の美濃赤坂訪問は、大理石王矢橋亮吉の洋館を見るのも目的のひとつです。明治~昭和初期にかけて、日本全国に一代で財を成した「〇〇王」と呼ばれた企業家たちが多数あらわれました。
矢橋は日本の近代建築に使われている大理石のほとんどを担ったまさに大理石王で、三重県桑名の山林王諸戸清六とともに東海地方を代表する実業家のひとり。明治維新からの殖産興業による近代産業発展にともない、石炭王、生糸王、タバコ王、ワイン王、鉄道王などなど様々な産業分野で王様と呼ばれる実業家たちが輩出しました。そして彼らはその成功と富の象徴とばかりに、こぞって当時としては最高の贅を尽くした西洋館を建てたのでした。

矢橋邸洋館もご多分に漏れず、贅を尽くして建てられた洋館のひとつです。地元金生山をはじめ国産最後の貴重な大理石(当時大正末にはほとんど輸入大理石に切り替わっていた)が邸内各所にふんだんに使われています。
今回は非公開の邸内を見ることはかないませんでしたが、大理石王の建てたこだわりの洋館の外観を垣間見ることができました。

矢橋本社から細い路地を隔てた南側、周囲を高い塀と深い木立で囲まれた広い敷地内の北側に矢橋家の旧住宅があります。東西に三棟の住宅が並んでいますが、和館の本館を中央に両脇を洋館がはさむように建っています。東側の小さな洋館と和館は初代亮吉が建てたもので、西側の大きめの洋館は次男の二代亮吉が結婚を機に新婚生活をおくるため新築しました。

西側洋館の外観はドイツのユーゲントシュティールやセセッションと言われる表現主義風のデザインで、途中で折れた急勾配の大屋根やドイツ壁、二階南面の大きな半円形の窓(浴場窓)などにその特徴を見ることができます。
邸内一階の広いサンルームには白大理石が敷きつめられ、壁の巾木や引き戸の鏡板、暖炉などにも各地の国産最後の大理石をふんだんに使い、屋敷全体が当時の国産大理石の展示場になっています。とくに暖炉には矢橋の原点ともいえる金生山で採れた茶色の石が使われているのが興味深いところです。
大理石ともう一つの見どころは邸内随所に見られる色とりどりのステンドグラス。植物をモチーフにした定番のデザインから、シカ、フクロウなど見どころ満載のステンドグラスが新婚家庭の洋館にふさわしい明るさを演出しています。

矢橋は全国各地の明治~昭和戦前期の建築の石材を一手に担い、矢橋抜きでは日本の近代建築は語れないといっても過言ではありません。現在でも日本銀行や国会議事堂、東京駅をはじめ、各銀行の本支店、地元東海地方では名古屋松坂屋、愛知県庁、名古屋市役所、旧岐阜県庁などに矢橋の手がけた大理石を実際に見ることができます。

床の間の置物からはじまり、暖炉から建築へと進出、近代建築にその名をとどめ設立100周年を迎えた矢橋は、現在も赤坂の石材産業をけん引し国内トップシェアを誇っています。その矢橋親子の業績と国産大理石の歴史を物語るかのように静かにたたずむ美しい白亜の西洋館。これからもゲストハウス南洋倶楽部として大切に保存され、幸せな余生を送っていくことでしょう。

◆旧矢橋亮吉邸洋館・南洋倶楽部/岐阜県大垣市赤坂町矢橋大理石(株)敷地内
 竣工:大正13~14年頃(1924~25)
 設計:岡村徳一郎
 構造:木造2階建
 撮影:2014/09/28

※建物の詳細は、建築探偵・近代日本の洋館をさぐる10↓
https://www.youtube.com/watch?v=NnSk0EzUO_A

 

■建物西側外観~ディテールにこだわった本物の西洋館だけが持つオーラが漂います
大屋根が途中で折れているのが分かるが、正面南側の特徴的外観が見られないのが残念!



■北隣に古い木造の建物が残る



■建物北側外観~大きな石貼りの煙突は本格的西洋館の必須うアイテム



■縦長の窓にはお約束のステンドグラス(ユリの花模様)~邸内から見られないのは残念です



■初代亮吉が建てた東館外観
隣の和館とセットで建てられたもので、和館+洋館の大正期の邸宅の典型的なかたち
外観は装飾的な木枠を見せるハーフティンバー風仕上げで洋館らしさを演出





■窓枠の装飾にも当時流行のセセッション風デザインが施されています





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2 Comments

コメント日が  古い順  |   新しい順
赤坂の (ろこ)
2015-05-20 22:03:17
大垣在住の者です( ^ω^ )
赤坂矢橋邸の近く、川湊跡にある赤坂会館という洋風建築の小さな建物があります。元は交番だったそうです。大垣にお寄りの際は立ち寄ってみてくださいませ。
赤坂宿散策 (shortwood)
2015-05-21 13:46:27
赤坂の(ろこ)さん、はじめまして。

赤坂港会館は、明治8年に建てられた大垣警察第五分屯所を復元したものですが、当時の擬洋風建築の雰囲気が漂う良い多建物ですね。
個人的には向かいの古いタバコ屋さんもツボです。
詳細はこちらをご覧くださいませ。

中山道赤坂宿散策(3)→http://blog.goo.ne.jp/shortwood/e/83057c1613e3db3dbbe271faf1456320

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