今日あんはあいちゃんと多摩川で遊んだ。
あいちゃんの周りをピョンピョン走り回っていた。
北風がとても強く寒いなかを。
あいちゃんのお母さんに「寒いですね」って言うと、「家を出た時が一番寒いです」と答えた。
それはほんとうで、玄関を出た途端、そのまま引き返そうかなと思うくらいの寒さを感じるが、歩いていくうちにその寒さもどうにかなってくる。
多摩川に行くと風が強い。
だが、風が止まった瞬間の暖かさが良く分かる。
かがむと風を避けることができ、地面の草たちと一緒に寒さをしのぐことも出来る。
そうしたことが面白い。
今日もあんはたくさん多摩川を駆け回り、あいちゃんたちより一足早く帰ってきた。
家の近くの踏み切りのところには、ケンちゃんちの田んぼがある。
あんはそこで少し立ち止まった。
あんの目線の先を見ると、田んぼに続く下水道の入り口近くで、タヌキさんが日向ぼっこしていた。
タヌキさんが日中から、人目があるところでそんなことはしないものであるが、そのタヌキさんは瀕死の状態であった。
酷い皮膚病になっていて、両目を見えていないようだった。
あんのためにあった鳥のササミをタヌキさんの近くに投げてあげると、やはり見えていないことが分かった。
鼻をクンクンしながら、ササミの場所を探し当て食べてくれた。
こうしたタヌキさんに餌をあげることは良くないことであろうが、もうそのタヌキさんの命は長くはないことが分かったので、ササミをあげた。
あんも自分が大好きなササミを投げ与えているのに、欲しがったりもせず、吠えたりもせず、大人しくそのタヌキさんを見ていた。
あんもあまりにも可哀想だと思ったのかもしれない。
そこにあいちゃんとあいちゃんのお母さんも多摩川から帰ってきた。
「タヌキがいますよ」と言うと、「多摩川に行く前から居たんですよ」。
「そうですか、酷い皮膚病ですね」。
「どうすることもできないですね」。
「・・・、ササミは食べましたよ」。
「そうですか、良かった」。
そこにトイプードルと散歩していた女性が来た。
「タヌキが居るんですよ」。
「そうですか」と言い、珍しそうに見ていた。
そして、自分たちがその場を離れた後、ケイタイで写メを撮っていた。
家に着き、タヌキのことを母親に話すと、三日ぐらい前に家から30メートルほど離れた石坂が働く山口板金の前でタヌキの親子が交通事故で亡くなったと言っていた。
前から家の近所にはタヌキさんが居ることを知っていたが、この寒さで食べるものがなく、厳しい生活をしていたのだろう。
胸に詰まる思いを感じる、何をどうすることもできないが、ただ今あるものを感謝し、慈しみ、大切にしていくことの意味を良く考えるようにと、誰かに言われたような気がした。