「雪の日に多摩川にあいちゃんと行ったんですよ。一面の雪景色でほんとうに綺麗だったんです。誰もいなくて、そこに足跡つけたりして、ほんとうに楽しかったですよ」。
これはあいちゃんのお母さんが以前話していたことで、それを聞いてから、いつかあんと雪景色の多摩川で遊びたいとずっと思っていた。
あんは天宿公園で雪をつかまれようと遊んでいた。
天宿公園から帰って来る途中にあいちゃんちがあるので、あいちゃんと会えないかなとあんと話しながら、あいちゃんちの近くを通って、家に戻ろうとしたが、あんはまだまだ遊びたい気分らしく、そこら中を楽しそうに歩き回りながらクンクンしていた。
「もっと遊ぼうか!」
あんにそう言って、自分が走り出すと、あんも着いてくるので、南武線の線路の向こうまで行くことに決めた。
そこにはケンちゃんちの田んぼがあり、しっかりと雪が一面に積もっていた。
これは行くしかない、思いっきり入り込むと、あんももうダッシュで田んぼのなかを走り回った。
リードをつけたまま、あんを自由に走り回らした。
あんは自分と追いかけっこしたいと尻尾をフリフリさせ、前足を伸ばして、自分を挑発してくる。
そこへ「ウォー!」と言って、あんを追いかけるとあんは楽しそうに逃げ回る。
辺りには誰もいない、雪が降るだけの静かな世界をあんと駆け回った。
十分遊んでから帰ると、あいちゃんとあいちゃんのお母さんに会った。
あんは大喜び。
「寒いですね」とあいちゃんのお母さんは傘をさしながら言ったが、自分は「楽しいですね、雪は良いですね。あんも大喜びです」と答えた。
「やっぱり雪が好きなんですね」とあいちゃんのお母さんは言った。
あいちゃんはカッパを着ていた。
あいちゃんがカッパを着ていると何かすました感じに見えるのは何故だろう。
いや、色眼鏡を急にかけ、あいちゃんを自分が見ているだけなのか、普段は着ないあいちゃんがカッパを着ているあいちゃんのぎこちなさを自分が感じているのか、それは分からないが、何故か少しすました感じに見えるあいちゃんが面白かった。
あんはあいちゃんとも遊びたかったに違いない、あいちゃんとあいちゃんのお母さんの後姿をしばらく見ていた。
月曜日はいつも休肝日にしていたが、今日は雪が降っていると言うこと、それは雪見酒が出来ると言うことで、こういう時は臨機応変に行こうと自分の都合良い言い訳を勝手に思いつき、あたたかな晩酌をした。
あんは家に帰ってからも、まだ雪のなかで遊びたいらいく、「ヒュ~ン」と言ってた。
次の日、九時に起きるとあんがいつも違い、コタツのなかから出てくると玄関に行き、散歩に行きたい様子で待っていた。
「良し!多摩川に行こう!」
すぐに用意して、あんと多摩川に行った。
あんは雪の上を歩くのが面白いらしく、サクサクと雪の上を歩いていた。
多摩川に行くと一面の雪景色、誰も居なかった。
あんと二人の貸切の多摩川グランドだった。
もうグランドに降りると、あんも嬉しそうに雪の上をピョンピョン走り出した。
ボールを投げると全速力で走り回り、ボールをくわえたまま、グランドを大きくダッシュしていた。
その姿は物凄く美しく、ケイタイでたくさん写メを撮ってみた。
撮った写メにはウォーリーを探せ的な小さいあんが遠くを飛び跳ねているのが撮れた。
それを見て笑った。
とにかくたくさん写メを撮りながら、あんと雪景色を祝福するように遊んだ。
夢が一つ叶った。
ずっとこうして遊びたかった夢が叶った。
自分の夢が叶っただけでなく、あんの夢が叶ったようにも思えた。
それはあまりにも楽しそうに走り回るあんの全身から雪景色のグランドに描かれていた。
あんも自分も大満足で多摩川に「ありがとう」と言って帰ってきた。