今日はアサダの命日。今日で七年になる。
あの日はこの時間、雨が降っていた。次第に空が明るくなり、晴れ間も見えていた。雨が止むのを空を眺めながら待っていた。
その時の感じをいま感じている。意識のなかで時が前後を行き交っていた。未来、ほんの少し先のことばかりが意識されてしまって、いまと言うときをつかめないままで、もう別れなければならない不安と恐怖が胸をただ重くしていた。
雨上がりを待っていたのは、もしかすると、少しでも、その心を晴れさせたかったのか。それを覚悟にするのに自分の力だけでは到底足らないことを感じていたからなのか。
そうかも知れない。出来ることなら逃げたかった。
どこに逃げる場所も無かったろうに、にもかかわらず、アサダの居なくなる世界から逃げていた。
心をつかめないまま、足は病院に向かっていた。同時に向かいたくない意識が要らぬ寄り道をさせた。
病院に着くとアサダの戦いをほんの十分前に終わっていた。
力が抜けた。緊張は解け、新たな緊張を直ちに作り出していた。夢のなかにいるような感覚で立ちすくんだ。
まだ涙を流しているナースを見ては、現実に引き戻された。
あのとき、アサダはどこに行ったのだろう。亡くなった身体に触れても、そこには、お前が居ないように思えた。
あれから、七年、あっと言う間だった。いまでもお前には語りかけている。
「そろそろ、にぃーさんの幸せそうな顔を見たいだろ。」
お前は見ているだろう。どこかからな。
茶化したい言葉を瞬時に放っているだろう。そして、自分を笑顔にしてくれるだろう。
「アサダ、この前まで自分と同じ背丈だったひまわりは、もうその頭は見上げるくらいに伸びていたよ。ときのなかで、お前も俺も成長しているんだって、なんかひまわりを見て、さっき考えていたよ。それは悪くないって思えたんだ。
住む世界が違ったりしていてもな。もうそれはあまり関係ない。自分は自分でしかなく、ここにいるよ。それも悪くないって思えるんだよ。このいまも良いってさ、思えるんだよ。
な、アサダ。」
今日はアサダへの感謝の特別な日。穏やかに呼吸を続ける。