あの日は確か真夏日だった。「ローカルアイドル」というキーワードがアイドルヲタ界隈で注目された頃、日本最大のアイドルフェスティバルを観にやってきた私は、午後の昼下がりにビルの屋上に通じる階段の傍に設けられた小さなステージの前に立ち、そこで歌うアイドルグループを注視していた。
酷暑の中、他のアイドルたちが曲間に適度に挨拶などを入れて体力調整をしている中、北関東からやってきたそのアイドルグループはスピーディーなダンスに乗って歌い、曲間を挟まずメドレーでパフォーマンスを続け、持ち時間の終わりを迎えようとしていた。その時、メンバーの一人が倒れた。小柄な子だった。周囲のメンバーは動揺を見せながら、倒れたメンバーを介抱している。
ステージが終わり、次のアイドルの出番が始まった頃、そのアイドルグループは私の傍を歩いて楽屋に向かっていった。倒れた子が姿を見せ、他のメンバーたちが皆、涙を流しながら彼女を気遣っていた。「完全燃焼」そんな言葉が脳裏に浮かぶ。この注目度の高いフェスに向けてグループは気合いを入れて臨んでいたのだろう。
私も、周囲の人たちも、惜しみない拍手を彼女たちに送った。
あの夏の日以来、私はひそかに彼女たちが気になっていた。王道アイドルポップスゆえに心が一線を越えられずにいたが、アイドルフェスで見かけると推しグループのような気持ちで応援した。ある日のフェスで、ピンク色の彼女たちの推しTを着た集団の横で観たことがある。彼らの応援もステージを疾走するメンバーに負けじととても熱いもので、その姿にサッカーのサポーターを連想した。
居心地の良さそうな空間に思えた私は、ある日、都内のデパートの屋上で開催された彼女たちのリリースイベントを観に行った。アイドルフェスのステージを観ていて気づいてはいたが、このグループのメンバーの中では、他の子が気の毒に思えるくらいに最年少の子が圧倒的な人気を誇り、ステージ後の握手会でも最年少の子の所にだけ長い列ができていた。
ある日、その人気トップの最年少がグループを辞めると知った。このままアイドル業界から去ってしまうのか。勿体ないと感じながらも、またどこかで会えそうな。そんな予感があった。そして、その予感は的中した。それは思いもがけない結果だった。
ハロプロ研修生新メンバー。
ハロプロ研修生の活動が本格化し、定期公演がヲタの注目を集めるようになった時期と、私が個人的な金銭事情で現場から足が遠のいたのは同時期だったから、元ローカルアイドルの末っ子エースが研修生でどんな活躍をしているかを体感できないまま時は流れた。
ローカルアイドルとはいえ、一度はアイドルヲタ界隈で名の知れる存在になり、アイドルフェスでも活躍をしていた彼女が、夢に向かってハロプロの世界で一から出直しをしている姿が報われてほしかった。
研修生からは次々とデビューが生まれた。研修生公演でヲタが注目した子の名は噂となって、在宅の私にも届いてくる。そのような子は大抵何らかの形でデビューした。モーニング娘。であったり、アンジュルムであったり、或いは新グループであったりした。だが、彼女の名はデビューの中にはなく、時々その名を見かける時は舞台だった。
彼女はこのまま埋もれてしまうのか。彼女のアイドルとしてのピークは中学生時代だったのか。
演劇アイドルを作ります。事務所の発表と共に、そこに彼女の名前を見た時、私は嬉しいというより安堵した。やっと報われたのだと。彼女はもう高校を卒業している年齢だった。
彼女が所属するグループが「雨ノ森 川海」という名前になり、そのグループが他のグループと一緒になった集合体が「BEYOOOOONDS」という名前に決まった時、新しい物語が始まった。そして、それは今も続いている。これからも続いていく。
ハロプロには25歳定年制があるという噂が立っていた時期がある。それが事実なら、彼女がハロプロメンバーでいられるのはあと二年ということになってしまう。
だが、噂はあくまで噂らしい。そうであってほしい。デビューが遅かったのだ。アイドル活動は長く続けてほしい。いつも全力で取り組む人だから、これからも力を込めて走っていくだろう。その姿をこれからも応援していきたい。高瀬くるみさんのアイドルストーリーはまだまだこれからだ。
誕生日配信
びよのびWEBラジオ【高瀬くるみ】3月16日配信