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はつ恋の失敗

2020年07月19日 | サカタだよ

人通りのないシャッター街のうす暗いところで目立たないように店を開いている本屋さんに迷い込んだ私は、がらんとした店内でひとりきりレジのおじさんと目が合ってしまい、何も買わずに店を出ることができなくなったので新潮文庫のツルゲーネフ『はつ恋』をしかたなく購入したのでした。

学生のころに読んでべつに何とも思わなかったその小説をあらためて買ったのは安いから(本体価格400円+消費税40円)にすぎず、ちっとも興味なかったけど買っちゃったから読みました。16歳のウラジミールが、21歳のジナイーダに恋する時点でそんなもん、うまくいくわけなかろうもん。

35ページの第7章を読み始めると「きっか□□時に」と文字がつぶれており、つぎの行でも「不思議な目□□□□をじろりと見る」と文字がつぶれているのでした。「じろりと見る」の「見」も消えかけています。これは何だ? どういうんだ? と引っかかった私は、すぐに奥付を見ました。

奥付とは本の奥(最後のページ)にある、こういうのです。昭和二十七年に初版が出て、昭和六十二年に版がつぶれるか何かして改版で七十三刷、それから令和元年の百四刷まで年1回ぐらいのペースで増刷してる。その間にまた版がつぶれて読めなくなったか。

それにしては他の字がつぶれてないし、いまどき活版でもないだろうから活字がつぶれることもなさそう。刷版にゴミでもついたか? はつ恋の行方より印刷ミスのことに興味を強く引かれたので、同じツルゲーネフ『はつ恋』の令和元年百四刷が全部□□□って読めなくなってるか、本屋さんへ確認しに行きます。

最寄りの書店にツルゲーネフ『はつ恋』がなかったので、しかたなく区立図書館に行ってみると平成二十年の百一刷があり、ちゃんと該当箇所が読めました。「きっかり八時に」「不思議な目でわたしをじろりと」と書いてあります。読めてしまえば、どうということはない。しかし発見もあります。

つまり、百一刷の時点では字がつぶれてなかったこと、年1回ぐらい定期的に増刷してたわけではなく昭和の終わり平成の初めごろは年に数回だったのが最近は10年ほどで3回しか増刷してないこと……以上があきらかになりました。ツルゲーネフだんだん読まれなくなってるんですね。

いよいよ百四刷を確かめねばと思い、神田の三省堂に行ってみると令和元年百四刷がありました。書店で本の写真を撮るのは差し障りがあるので、わざわざ購入して家で撮影したのがこれです。「きっかり八時に」も「わたしをじろりと見る」もつぶれてない。いや、「きっかり八時に」は消えかけ。百四刷でやはり何らかのトラブルがあり、そこに程度の違いがある以上は無事なのも、ひどいのも、世の中に出回って読まれるのを待ってる。そういう状態であることが何となく察せられました。

関連記事:   奥付の鑑賞

 

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