かの世界この世界:148
ほんの0.1秒見えた気がする。
視界の端から端までグレートウォールのように広がる樹皮、一枚一枚が神殿の絨毯ほどに大きな葉っぱ、それが幾重にも重なって陽の光をさえぎって……これが世界樹ユグドラシルか!?
思った瞬間に衝撃がきて、気絶してしまった。
数瞬か数時間かたって意識が戻る。
おぼろに視界が戻ってくると、四号の車内は傾いでいる……いや、どこか傾いだところに着地したので、意識が四号の傾ぎと認識しているのだ。俊敏な意識と感覚の回復はトール元帥親衛隊の訓練の賜物か、姫をヴァルハラまでお連れしなければならない役目の自覚からなのか。いずれにしろ、他の乗員よりも早く意識が戻ったのは幸いだ。
目視できる範囲で乗員を見渡す。
ショックで気絶はしているが、重篤な怪我などはしていないようだ。とりあえず、すぐ横のユーリアを起こそうと手を掛けて、ハッとした。
頭上ののキューポラハッチが開いているのだ。
混乱した。車内には本来の乗員五人とヘルムからの仲間であるユーリア……全員そろっている。
だのにハッチが開きっぱなし……締め忘れはあり得ない。軍に籍を置いてから配置の変わらぬ戦車兵だ。戦車の扱いは自分の体と変わらない。ハッチを閉め忘れるなど呼吸を忘れることに等しい。
ならば、外敵によってこじ開けられたか!?
思った瞬間、腰のモーゼルを引き抜いた。
すぐにハッチから首を出すようなヘマはしない。一秒とかからずにキューポラ全周のペリスコープを確認する。
一番のペリスコープ(正面)が真っ暗だ。なにかが視界を塞いでいる。
車載機銃のカートリッジを掴んでハッチの外に放り出す。敵の注意がカートリッジに向いた瞬間、0.3秒でキューポラの外に飛び出しゲペックカステンの後ろに隠れるとともに両手でモーゼルを構える。
敵は砲塔の上に居るはずなのに動きが無い。
音を立てずに砲塔の側面にまわって、下方から、そいつに銃を構える!
「なにやってんの~?」
間延びした声に記憶が戻って来る。
砲塔の上でぼんやり体育座りしているのは小柄な少女……こいつは、ラタトスクのナフタリン。
「な、なんだナフタリンか」
「アハハハハハ……」
「なにが可笑しい?」
「だって、タングリス、あたしが乗ってたの忘れてただろ」
「そんなことはない(^_^;)」
「でもよ、そんなに怖い顔して銃を構えてるんだもん。ついさっき、やってきたばかりのあたしを忘れたんだ。だろ?」
「そういうナフタリンは何をしているんだ?」
「どうやら、巨人の国のヨトゥンヘイムに着いたような気がするんだけど、どうもおかしいんだ」
「ヨトゥンヘイム?」
ヨトゥンヘイムと言えば巨人の国だ。ところが、目に入る家々は我々人間にとっての原寸大で、とても巨人族が使うようなものには見えないのだ。
「メッセンジャーで何度も来てるんだけど、街や家々には見覚えたヨトゥンヘイムなんだけど、スケールが小さすぎるんだ」
「これは、普通の人間の町だ。人間界であるミッドガルドではないのか?」
「ミッドガルドはありえない。だって、雲は流れてるし、鳥だって空を飛んでる」
あ……時間が停まっていない!?
人間界はヘルムの女神が力を失ったことで時間が停まっているはずだ……。
☆ ステータス
HP:20000 MP:400 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー
持ち物:ポーション・300 マップ:13 金の針:60 福袋 所持金:450000ギル(リポ払い残高0ギル)
装備:剣士の装備レベル55(トールソード) 弓兵の装備レベル55(トールボウ)
技: ブリュンヒルデ(ツイントルネード) ケイト(カイナティックアロー) テル(マジックサイト)
白魔法: ケイト(ケアルラ) 空蝉の術
オーバードライブ: ブロンズスプラッシュ(テル) ブロンズヒール(ケイト) 思念爆弾
☆ 主な登場人物
―― かの世界 ――
テル(寺井光子) 二年生 今度の世界では小早川照姫
ケイト(小山内健人) 今度の世界の小早川照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる
ブリュンヒルデ 無辺街道でいっしょになった主神オーディンの娘の姫騎士
タングリス トール元帥の副官 タングニョーストと共にラーテの搭乗員 ブリの世話係
タングニョースト トール元帥の副官 タングリスと共にラーテの搭乗員 ノルデン鉄橋で辺境警備隊に転属
ロキ ヴァイゼンハオスの孤児
ポチ ロキたちが飼っていたシリンダーの幼体 82回目に1/6サイズの人形に擬態
―― この世界 ――
二宮冴子 二年生 不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い
中臣美空 三年生 セミロングで『かの世部』部長
志村時美 三年生 ポニテの『かの世部』副部長