大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・妹が憎たらしいのには訳がある・29『里中ミッション・1』

2018-09-24 06:41:15 | ボクの妹

が憎たらしいのにはがある・29
『里中ミッション・1』
    


 俺はねねちゃんになってしまった……。

 つまり義体であるねねちゃんのCPにボクの心がインストールされたということで、ボクの体は、今はねねちゃんである。
「インスト-ルは90%に押さえてある。完全にインスト-ルすると、太一は、自分の体も動かせなくなるからな。今日は一日、オレの家で休んでいてくれ」
「で、ミッションは?」
「ねねの行動プログラムに従って、学校に行ってくれ。問題は直ぐに分かる。じゃ、よろしくな」
 そこでボクは車を降ろされた。
 角を曲がって五十メートルも行けば、フェリペの正門だ。視界の右下に小さく俺の視界が写っている。まだ、しばらくは車の中なんだろう。

 五メートルも歩くと違和感を感じた。スカートの中で、自分の内股が擦れ合うのって、とても妙な感覚だ。
――女の子って、こんなふうに自分を感じながら生きてるんだなあ……大したことじゃないけど、男女の感受性の根本に触れたような気がした。

「里中さん、ちょっと」

 担任の声で、わたしは……ねねちゃんになっているんで一人称まで、女の子だ。わたしは職員室に入った。
「失礼します」
「こちら、今日からうちのクラスに入る、佐伯千草子さん。慣れるまで大変だろうから、よろしくね」
「チサって呼んでください。よろしく」
 チサちゃんは、立ち上がってペコリと頭を下げた。
「わたし、里中ねね、よろしくね」
 ほとんど自動的に、笑顔が言葉と手といっしょに出た。チサちゃんがつられて笑顔になる。
 で、握手。
「やっと笑顔になった」
 担任の山田先生が、ホッとした顔をした。ねねちゃんは、単に可愛いだけじゃなく、人間関係を円滑にするようにプログラムされているようだ。

 教室に着いた頃、本来の俺は、里中さんの家にいた。
 車の中からここまではブラックアウトしている。セキュリティーがかかっているんだろう。たとえ一割とは言え、自我が二重になっているのは、ややこしいので、本来の俺は直ぐにベッドに寝かしつけた。

 朝礼まで時間があるので、わたしはチサちゃんに校内の案内をした。

「ザッと見て回ってるんだろうけど、頭に入ってないでしょ」
「うん……」
「こういうことって、コツがあるのよね」

 わたしは、教室、おトイレ、保健室。そして、今日の授業で使う体育館と美術室を案内した。そして、そこで出会った知り合いやら、先生に必ず声をかける。そうすると、場所が人間の記憶といっしょにインプットされるので、ただ場所だけを案内するよりも確かなものになる。
 しかし、行く先々で声を掛ける相手がいるというのは、わたし……ねねちゃんもかなりの人気者なんだ。

「佐伯千草子って言います。父が亡くなったので、伯父さんの家に引き取られて、このフェリペに来ることになりました。大阪には不慣れです。よろしくお願いします」
 短い言葉だったけど、チサちゃんは、要点を外さずに自己紹介できた。最後にペコリと頭を下げて、大きなため息ついて、ハンカチで額の汗を拭った。それが、とてもブキッチョだけども素直な人柄を感じさせ、クラスは暖かい笑いに包まれた。
「がんばったね」
「うん、どうだろ……」
「最初に、自分の境遇をサラリと言えたのは良かったと思うよ」

 三時間目が困った、チサちゃんじゃなくてわたし。

 体育の時間で、みんなが着替える。女子校なもんで、みんな恥じらいもなく平気で着替えている。わたしは、プログラムされているので、一見平気そうにやれるけど、この情報は、寝ている「ボク」の方にも伝わる。案の定、「ボク」は、真っ赤な顔をして目を覚ましたようだ。

 美術の時間、チサちゃんは注目の的だった。

 静物画の油絵だけど、チサちゃんはさっさとデッサンを済ませると、ペィンティングナイフで大胆に色を載せていく。そして五十分で一枚仕上げてしまった。

「まるで、佐伯祐三……佐伯さん、ひょっとして!?」
「あ、その佐伯さんとは関係ありません……」
 それまで、絵に集中していたんだろう、先生やみんなの目が集まっていることに恥じらって、俯いてしまった。
 一枚目は習作のつもりだたのだろう、与えられた二枚目のボードを当然の如く受け取った。
「そこ、場所開けて」
「は、はい……」
 チサちゃんは堂々と自分の場所を確保。だれもが、それに従順に従った。
「先生、この作品は、まだまだ時間が要ります。放課後も描いていいですか?」
「う、うん、いいわよ」

 チサちゃんは、たった一日で、自分の場所を作ってしまった。まあ、それについては、わたしも少しは寄与している。
――これでいいんでしょ、里中さん?
 連絡すると意外な答えが返ってきた。
――これからが、本当のミッションなんだ。

 ターゲットは、帰りの地下鉄の駅前の横断歩道にいた……。


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