まりあ戦記・051
これは、もう阿弥陀様のお導きだね!
放課後にいたるまで、なにくれと世話を焼いてくれた観音(かのん)が感心した。
三人揃って昇降口に向かって、これまた三つ並んだロッカーからおソロのローファー出して履き替えて、正門を出たところで、ごっついRV車がシズシズとわたしたちの前に止まった。
「おお、ちょうど通りかかったところだ、家まで乗せてってやろう、そっちは友だちの釈迦堂さんだな、いっしょに乗っていきなさい。大尉、前に回ってくれ」
不機嫌なオーラが後部座席から前に回って来る。
「え、みなみさん?」
「さっさと乗りなさい、家に着くまでは任務だから」
「え、任務?」
疑問に思ったのは、わたし一人で、中原少尉はポーカーフェイスで、ナユタはニコニコと、観音は「ヤッター」と嬉しそうに乗り込んだ。
「釈迦堂さんの家は、浄土真宗のお寺さんだったな……」
ニコニコとハンドルをさばきながら金剛少佐が呟く。
「はい、ここいらでは珍しい仏光寺派です」
「おお、それは良かった。わたしの家も仏光寺派の門徒なんだがね、うちを檀家にしてくれんかね?」
「ああ、それは願ってもないことです!」
「月参りもお願いしたい。そうだ、これからご本尊様に挨拶にいこう!」
ギューーン
うわ!
少佐は急ハンドルを切って、道を観音のお寺に車を向けた。
「うわあ、これがお寺なんだ(^▽^)/」
ナユタが子どものように境内を駆けまわる。
なんだか悪い予感がするという点ではみなみ大尉といっしょなんだけど、わたしは、ちょっと面白くなりはじめている。
「あの、おっきな鐘はなんなの!?」
「えと、お寺の鐘……あ!」
ゴーーーーーーーーーーーーーーン!!
観音の注意も間に合わずに、ナユタは力任せに鐘をついた。
「あ、近所迷惑になるから、普段はつかないんだよ(^_^;)」
「え、鳴らさない鐘なんて意味ないじゃん?」
「もー、勝手にチョロチョロすんな!」
「あ、痛いよ、おねえちゃん(n*´△`*n)!」
耳を引っ張って釣鐘から引き剥がすけど、なんだか喜んじゃってカックン。
大尉は、相変わらずの不機嫌、中原さんは達観したポーカーフェイスで揃って本堂の階段を上がる。
「うわあ、ピッカピカ! あ、ズコ!」
ご本尊や仏具のピカピカに感動して走り回りそうなナユタを早手回しに座らせる。
「じゃあ、これがうちの過去帳」
将校鞄から出したのは過去帳の形をした箱で、表には『金剛家』と漆で書かれている。
「お寺の娘ですけど、箱になってるのは初めてみました。開けていいですか」
「どうぞ」
「あら」
箱を開けて観音ちゃんは、明るい声をあげた。
なんと、箱の中には『金剛家』『舵家』『中原家』の過去帳が入っている。
「え、いつの間に!?」
うちの過去帳は、カルデラに来て買ったお仏壇の中に収めてある。油断がならない(^_^;)。
「ナユタのはないのかなあ……」
純粋なナユタは、寂しそうだ。
「心配するな、ナユタはわたしの金剛家に入れてある」
「わーーい、見せて見せて!」
「ほら」
「どれどれ……あ、あったあった!」
え、過去帳って死ななきゃ載せないはずだよ。その表情を読んだのか、少佐がしたり顔で言う。
「特殊なインクで、紫外線をあてると消える。死んだら正式に法名で書いてやる」
「え、でも、命日とか……」
「とりあえずは誕生日にしてある」
「ナユタ、ちょっと貸してくれる」
「はい」
「……え? なんで、あたしの名前が入ってんの!? それも少佐の横にぃ!?」
「お、知らなかったのか、俺と大尉は一日違いの誕生日なんだぞ」
「そーゆーことじゃなくってぇ!!」
「怒るなよ、夫婦なんだから(^▽^)/」
「え、え、そんなあヽ(`#Д#´)ノ]
「え、ご夫婦だったんですか!」
「あ、ちが……」
「と、いうことだか五人揃ってよろしく!」
観音は困った顔をしながら、わたしの知らないお経をあげてくれる。
なんだか、メチャクチャだけど、うちのお兄ちゃんは喜んでくれるかもしれない。