大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・あすかのマンダラ池奮戦記・2『金の成績表』

2016-10-20 06:12:29 | 小説5
あすかのマンダラ池奮戦記・2
『金の成績表』




「ところで、あすかちゃん……」

 と、神さまが馴れ馴れしく、静もる池を背に、近所のオバサンのように語りかけてくる。

「あたしのこと知ってるの?」
「神さまだよ、あたし。もうこの池に三百年も住んでる」
「三百年……神さま?」
「トヨアシハライケスミノミコトと申すのよ……オッホン」
「ト、トヨアシ……」
「イケスミ……イケスミさんでいいわよ。ところであすか……落し物したでしょ?」
「え、はい……」
「成績票」
「拾ってくれたんですか!?」
「はい、あすかが落とした成績票……」

 イケスミはマジックのように二つの成績票を空中から出した!

「それ……?」
「金の成績票と、紙の成績票と、どっちがあすかさんのかしらぁ?」
「……これって、昔話にあったよね。正直に言ったら金の方までもらえるって……フフフ、やっぱ猫の恩返しか!?」

 あすかは、一瞬で善良無垢な女子高生の表情を作った。

「さあ、どっち。どっちがあすかちゃんの成績票?」
「はい、もちろん紙の方です! そのコーヒーのしみがついているのが何よりの証拠。紙の方があたしの成績票です!」
「う~ん、素敵に正直な目の輝き。はいどうぞ。まちがいないわね」
「……英数国が欠点、物理と化学がおなさけの四十点。まちがいありません、あたしの成績票です!」
「それはよかった。あなたって、正直者ね」
「いえ、それほどでも……」

 騙しているつもりだが、正直に照れる。あたりはアヤカシ色に黄昏れているのにも気づかぬあすか。

「『正直者の頭(こうべ)に神宿る』って、昔からいうのよ」
「神戸? ひょっとして神さま阪神ファン? 阪神の神って神さまの神だもんね。どうしよう、わたしって巨人ファンだよ……」
「バカ、頭のことだわよ。神さまは正直者が大好きって意味」
「それって、正直者をおたすけになるってことなんですよね!?」
「まあね……」
「ウフフ……やっぱ恩返し!」
「……ん?」
「いえ、なんでも……」
「というわけで、その正直さを愛(め)で、特別にこの金の成績票もさずけましょう」
「やったあ!……いえ、こっちのことです。ありがとうございます!」
「それでは、これからも、神をあがめ、自然をいつくしみ正直に生きますように」
「はは!」

 あすかは、神の威に打たれたようにひれ伏す。

「ヌフフ……」
「え……?」
「いえ、なんでも……めでたしめでたし……」
「めでたしめでたし……」

 池の中に消える神さま。この後の展開を気ほどにも気づかず、神妙にひれふすあすかであった。



※このお話は、もともと戯曲です。実演の動画は下記のURLをコピーして貼り付けて検索してください。

 http://youtu.be/b7_aVzYIZ7I

※戯曲は、下記のアドレスで、どうぞ。

 前半: blog.goo.ne.jp/ryonryon_001/.../2bd8f1bd52aa0113d74dd35562492d7d‎

 後半: blog.goo.ne.jp/ryonryon_001/e/5229ae2fb5774ee8842297c52079c1dd‎

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