大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

RE・乃木坂学院高校演劇部物語・58『大波乱の予兆』

2022-12-19 07:01:59 | 青春高校

RE.乃木坂学院高校演劇部物語    

58『大波乱の予兆』 

 

 

―― 理由は、その両方だと思いますよ ――

「で、おまえ達は、どこまで進んでるんだ?」

「え……」

「その……」

「適当に返事しときゃいいわよ。どうせこの先生の暇つぶしなんだから」

「失礼なババアだな。わしゃ、若者の健全な育成のためにだな……」

「はいはい。ババアはこれで退散いたしますよ。また機械の操作が分からなくなったら声かけてくださいな」  

 奥さんは意外なくらい新しい鼻歌と共に行ってしまった。


「おばちゃん、なかなかいけてますね」


「少年よ、人も物ごとも正確に見なくちゃいけない。あれは、おばちゃんではない。礼節をもって呼ぶとしても、お婆さんが限界だ」

「でも、あの鼻歌、オリコンで十週連続でトップですよ」

「ただの、オチャッピーのなれの果てさ。ただ、女子挺身隊で電機工場に行っとたせいか、いまだに家電には強いけどな。有り体に言えばクタバリぞこない」

「アハハ、家じゃ、おばあちゃんが、おじいちゃんのことをそう呼んでます」

「あれでも心臓が弱くてな。二度ほど俺が蘇生させてやった。時々後悔するけど、あいつが居らんとテレビも満足に点けられん」

「夫婦愛ですね……」

 忠クンがしみじみ言った。とたんに先生がハデにむせかえった。

「ゲホゲホ! ゲホホホ! 忠友少年。そう言う言葉は、少年の少の字が中になってから言いたまえ……で、どこまで話したっけ?」

「あのう……ね」

 思わず二人は目を合わせた。

「うん、分かった!」

 先生は膝を叩き、メガネをずらしてわたし達を見つめ直して断言した。

「せいぜいキスの段階だな」

「「あの……」」

 同時に声が出た。

「どうだ、大当たりだろう!?」

 当たってはいるんだけど、状況が違う。あれは賞状が風に飛ばされて不可抗力だったんだ(詳しくは7『スマホ片手に悶々』を読んで)

「二人とも、純で真っ直ぐで曇りのない目をしている。今時珍しいと誉めてやる」

「ありがとうございます」

 忠クンは、照れて頭を下げた。

「しかし、二人とも、雰囲気と行きがかりに弱い……ま、それで、火事場の馬鹿力。まどかの命を助けることもできたんだろうけどな。でも、どうだ、俺のおまじない、あらかわ遊園じゃ役にたっただろう。な、まどか」

 やっぱ薮先生は狸だ、こんなことまで知ってるなんて。

 実際火事の件は近所でも少し評判になった。でも、あらかわ遊園のことはね……よく考えたら、あらかわ遊園以来だ。二人で会うのは……って、狸が一匹オジャマ虫。

「物事には、裏と表があってな。こうやって狸じじいが、出会いの場を作ってやることもあるし、オジャマ虫になることもある」

 先生は、最後のヨウカンを口に放り込んだ。意外においしそうに食べている。

「忠友少年……真っ直ぐで曇りのない目だが、焦りを感じる。まどかに対して、その焦りは禁物だ。何事にもな」

「先生……」

「話は最後まで聞きなさい。俺の親父は海軍の軍医だった……」

 先生は、わたしの背後の長押(なげし=襖の上の水平な細い梁みたいなの)に目をやった。

 体をひねっても見えないんで、忠クンの横に行った。忠クンの体温を間近に感じて、少しトキメイタ。それを知ってか知らでか、先生は演説を続けた。

「軍人というと十把一絡げに悪く言うやつもいるけどな、気持ちのいいヤツも多かった。親父は航空母艦の軍医長を長くやっていてな。おれがガキンチョの頃、よく家に若いパイロットを連れてきた。みんな真っ直ぐで曇りの無い目……しかし視点は爽やかなほど彼方にあった。まだ戦争は本格的にはなっていなかったけどな。國を護るということは、こんなに人の心を綺麗にするものかと思って聞いてみたことがある」

 気がつくと、先生は湯飲み茶碗にお酒を注いで飲んでいた。いま飲み始めたのか、さっきからそうしていたのか分からない。顔色を見ても、お酒に強い人なので分からない。

 やっぱ、薮先生は狸だ。

「その人は、こう言ったよ――そんな大げさなもんじゃないよ。航空母艦の飛行機に乗っているとね、潮風と空の風に吹きっさらされて、見えるものは遙かな水平線。で一見爽やかそうなバカッツラができあがるんだよ。秘訣って言えば、曜日を忘れないように、毎金曜日にカレー食うことぐらいかな――ってな」

 長押に掛かった写真は、少し帽子を斜めに被った先生と似ても似つかないイケメン。

 そのイケメンは――どうした若いの、どうしようってんだね――と、挑発している。

 それをわたしといっしょに眺めている忠クンの顔は……ね。

 マクベスの首を獲ったマクダフのようでした(分かんない人は『マクベス』読んでください)

 で、このときの忠クンの顔……というか、想いは、来年に起こる大波乱の予兆だった。ガキンチョのまどかが、それに気づくにはもう少しの時間が必要だった。

 

☆ 主な登場人物

  • 仲 まどか       乃木坂学院高校一年生 演劇部
  • 坂東はるか       真田山学院高校二年生 演劇部 まどかの幼なじみ
  • 芹沢 潤香       乃木坂学院高校三年生 演劇部
  • 芹沢 紀香       潤香の姉
  • 貴崎 マリ       乃木坂学院高校 演劇部顧問
  • 大久保忠知       青山学園一年生 まどかの男友達
  • 武藤 里沙       乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 南  夏鈴       乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 山崎先輩        乃木坂学院高校二年生 演劇部部長
  • 峰岸先輩        乃木坂学院高校三年生 演劇部前部長
  • 高橋 誠司       城中地区予選の審査員 貴崎マリの先輩
  • 柚木先生        乃木坂学院高校 演劇部副顧問
  • まどかの家族      父 母(恭子) 兄 祖父 祖母

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« くノ一その一今のうち・31... | トップ | 魔法少女マヂカ・301『戻... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

青春高校」カテゴリの最新記事