コッペリア・19
栞の『恋チュン』のコスプレ衣装はひどかった。
「おかしいなあ……」
颯太も、戸惑ってパソコンでMAMAZONを出して、注文したテナントのH・Sという業者のサンプルと見比べた。
「これ、別物だね」
商売柄セラさんは、こういうコスの違いには敏感だ。颯太には、なんとなく違うとしか分からなかった。
「ようく見てよ、栞ちゃん、ゆっくり一周してみな」
栞は、言われたようにマネキンのように、ゆっくりと回った、セラさんはボールペンの頭で指しながら解説した。
「いい、ウエストの位置が7センチほども高い。上着の裾は10センチ高い……つまり、胴長短足に見える」
「でも、これオーダーメイドなんだぜ」
「嬉しい(^▽^)!」
「喜んでる場合じゃない。ブラウスの襟ガバガバじゃん。帽子はちっこすぎる。頭に乗っかってるだけ。スカートはボックスプリーツだけど、これは単なるギャザースカート。パチモンだね……」
セラさんは、そう言いながら画面をスクロールしていく。
「あ、この業者と同じ写真だ!」
「……ほんとだ」
セラさんは、我が事のようにすぐに業者に連絡してくれた。
「……なんだってぇ、写真は試作品で、現物とは違いがある? バカにすんじゃないわよ。特定商法ってネット通販を規制する法律に書いてあるわよ。これは完全に誇大広告の上にサンプル写真の盗用……なに、返品してくれ、代金は返すから? 冗談じゃないわよ。証拠が無くなっちゃうじゃないの、これは証拠品として押えとく。MAMAZONには保証申請しとくから……え、こんなもの売りつけといて、よく言えるわよね、首洗って待ってなよ!」
すごい剣幕でまくしたてると、セラさんはネットオークションを検索。たちどころに中古のコスを発見、五千円で二着落札した。
落札したコスは、あくる日には届いた。栞とセラとでファッションショー。二人ともご機嫌であった。
MAMAZONと落札したコス代は颯太の持ち出しである。
商店会主催の『恋チュン大会』は大盛況だった。
なんと、AKPから振り付けの担当と地元の放送局がやってきた。
ノリのいいセラさんは、商店会長とテレビのディレクターと相談をぶった。
三十分ほどすると、AKPのいろんなコスをした人たちや、近くの高校や大学のチアグループ。商店街のみなさんなど三百人が集まった。
結局、AKPの振り付けさんが、居並ぶ恋チュン大好きさんたちに振り付け、いろんな場所やシュチュエーションで数十カットを撮った。
その日の夜のニュースでは、ローカルニュースとして取り上げられ、ユーチューブのアクセスは五万を超えた。商店会も放送局も大喜びだった。
その夜遅く、AKPの事務所でユーチューブを見ていたスタッフや、手空きのメンバーが、栞に注目した。
「この子、ロングで撮ると萌絵そっくりだわね……!」
AKPから公認が出たのは当然だったが、その後意外な運命の展開があるとは、誰も気づかなかった。