大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

RE・乃木坂学院高校演劇部物語・103『素顔のキャストとスタッフ』

2023-02-02 07:37:50 | 青春高校

RE.乃木坂学院高校演劇部物語    

103『素顔のキャストとスタッフ』 

 

 

「自衛隊の体験入隊で、なんか変わった?」

「変わったってか……分かったよな」

「なにが……?」

「それは……」

「自分は、まだまだなんだけど、希望の持てる場所はここだ……かな?」

「先回りすんなよ、言葉が無くなっちまうじゃないか……」

「ごめん」

「い、いや、ありがとう……」

 ゆりかもめの一群が川面をなでるように飛んでいった、二人はそれを目で追う。ゆりかもめは、少し上流までいくと、さっと集団で舞い上がり。それにつれて二人の顔は上を向き、遠く彼方を見つめる目……少しはサマになる。

 すかさずレフ板の位置が変わって、カメラが切り替わる。


 ちょっと説明。


 これは、ちゃんとしたテレビの撮影なんだ。『春の足音』のね……って、別にわたしが主役になったわけじゃない。

 プロデューサーの白羽さんのアイデアで、毎回番組の最後に『素顔のキャストとスタッフ』というコーナーができて、二分間、毎回一人ずつ紹介していくわけ。


 やり方は基本その人の自由。この荒川の下町が舞台だから、町の紹介をしてもいいし、他のキャストやスタッフさんとのト-クもOK。順番はジャンケンで決める。そのジャンケン風景も撮って流すんだから、この業界の人のやることにムダはありません。


 で、わたしが大久保流ジャンケン術で勝利し、その栄えある第一回に選ばれた。

 むろん、ただのエキストラなんで、あらかじめ、はるかちゃんが紹介してくれて、わたしが映っている何秒間かが流れて、このシーンになるのね。

 わたしは、無理を言って忠クンを引っぱり出した。

 忠クンの体験入隊は、忠クンの中ではまだ未整理になっている。わたしへの気持ちもね。だから、こうやをって引っぱり出してやれば、いやでも考えるだろうって、わたしの高等戦術。いちおうわたしのカレだから、しっかりしてもらいたいわけ。


 え……「いちおう」……それはね、乙女心よ乙女心。最終章まできて、のらりくらりのカレを持った崖っぷちのオトメゴコロ!!

 分かんない人は、第一章から読み直して。序章には忠クン出てこないから。

 でも、わたし的には序章から読んでほしいかな。

 監督も、高校生の自衛隊の体験入隊がおもしろいらしく、A駐屯地まで行って取材もしてきた。教官ドノをはじめみなさん大張り切りだったみたいだけど、流れるのは、ほんの何十秒。それも大空さんがほとんど。テレビのクルーも絵になるものは心得ていらっしゃる。

 で、ゆりかもめを見つめて、なんとかサマになった忠クンは、こう締めくくった。

「大変なことを、自然にやってのける力……そういう心になれるまで……その、軽はずみな気持ちだけでフライングしちゃいけないんだなって、そう思った」

「ほんと?」

「うん。前さえ向いていたら……今はそれでいい」

「今度、火事になったら、また助けてくれる?」

「それは、もう勘弁してくれよ」

「それって、もう助けないってこと?」

「助けるよ。目の前で起こったら……そういうことも含めて、まず目の前にあることを一つずつやっていこうって。あのゆりかもめだって、最初から、あんなに自由に飛べるわけじゃないだろう」

「で、助けてどうすんの?」

「分かんねえよ」

「……そう」

「?」

 わたしは、立ち上がると、グイッと重心を前に移す。

「あぶねえ!」

 ドッポーーン!

「あ、ちょ、なんでこうなるの!?」

 助けようとした忠くんひとり川に落ちてしまう。わたしは、腰のところに落下傘のハーネスみたいなのが付いていて、その先をスタッフが持ってくれている。
 ちょっとしたドッキリカメラで、ふたりとも川には落ちない仕掛けになっている。

 それを、勢いの付いた忠くんは、抱きとめたわたしを軸にクルリンと回って、そのまま川に落ちてしまった!


 カットぉ! オッケー!

 
 監督の声がして、スタッフが駆け寄って来て、水面にロープを投げる。

 まあ、やっと三月の荒川。誰も飛び込もうとは思わないよね(^_^;)

 

☆ 主な登場人物

  • 仲 まどか       乃木坂学院高校一年生 演劇部
  • 坂東はるか       真田山学院高校二年生 演劇部 まどかの幼なじみ
  • 芹沢 潤香       乃木坂学院高校三年生 演劇部
  • 芹沢 紀香       潤香の姉
  • 貴崎 マリ       乃木坂学院高校 演劇部顧問
  • 貴崎 サキ       貴崎マリの妹
  • 大久保忠知       青山学園一年生 まどかの男友達
  • 武藤 里沙       乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 南  夏鈴       乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 山崎先輩        乃木坂学院高校二年生 演劇部部長
  • 峰岸先輩        乃木坂学院高校三年生 演劇部前部長
  • 高橋 誠司       城中地区予選の審査員 貴崎マリの先輩
  • 柚木先生        乃木坂学院高校 演劇部副顧問
  • 乃木坂さん       談話室の幽霊
  • まどかの家族      父 母(恭子) 兄 祖父 祖母

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