REオフステージ (惣堀高校演劇部)
145・セーヤンとトラヤン 啓介
手紙には『突然の手紙でもうしわけありません、放課後屋上でお待ちしています。一年一組伊藤香里菜』とあった。
惣堀には三つの校舎があって、生徒が自由に使えるのは本館の屋上や。南館と北館に挟まれて死角が無いので昼休みと放課後に解放されてる憩いの場所。
――ええ、どうしょうか……――
これがラインとか、手紙であってもパソコンとかで打ち出した手紙やったら無視したかもしれへん。
せやけど、レターセットの淡い桃色の便せん。そこに、けして上手い字やないけど、短くもていねいに書かれた言葉と文字。
それに、右端の方が微妙によれてる。これは、時間をかけたんで、手の汗でちょっとだけ便せんがふやけた痕と思われた。
つまり、一生懸命勇気を出して書いた手紙やろと推測されて、無視はでけへんという結論に達しかけた。
セーヤン:「こんな子ぉや」
セーヤンとトラヤンが前に立ってスマホを突き出す。
スマホには廊下を歩いてくるツインテールの女子が映ってる。慌てて撮ったんやろ、手前の男子の肩に焦点が合って、ちょっとピントが甘い。
啓介:「お、おまえら!?」
トラヤン:「友だちの一大事や、休み時間に調べといた」
セーヤン:「啓介、休み時間のたんびに手紙広げて考えてんねんもんなあ。これは親友として放ってはおけんやろ……と、トラヤンと意見が一致した」
トラヤン:「わいは、千歳ちゃんやと思うねんけどな」
啓介:「ち、千歳は……」
セーヤン:「オレは、見極めならあかんと思うぞ」
啓介:「見極める?」
トラヤン:「自分の気持ちやがな!」
セーヤン:「啓介、おまえは自覚ないかもしれんけど、おまえを意識してる女子はけっこう居てるねんぞ」
トラヤン:「うらやましい」
啓介:「そんなん無いて(^_^;)」
セーヤン:「いや、オレもトラヤンも小学校からの付き合いや」
トラヤン:「よう分かってる」
セーヤン:「けして興味本位とちゃうんや」
トラヤン:「せや、啓介が野球止めた時、もったいないなあて思たけど、こないだのピンチヒッター見ても思た」
セーヤン:「啓介は野球でもじゅうぶんやれるやつやった」
トラヤン:「おまえは、わいらよりも才能とチャンスに恵まれとる。ただ、サバサバしすぎて、身の回りのことに無頓着というか未練なさすぎ」
トラヤン:「なさすぎ」
セーヤン:「会うだけ会って、もうちょっと深いとこで決めたらええと思うぞ」
けっきょくは、俺の心の揺れをトレースしただけみたいやけど、それも友だちやからこそのお節介やと思う。
「すまん、部活いくのん遅れるかもしれへん。カギ渡しとくわ」
昼休みにミリーに鍵を渡す。
「あ、そ」
めちゃくちゃ愛想ないミリーやった。
☆彡 主な登場人物とあれこれ
- 小山内啓介 演劇部部長
- 沢村千歳 車いすの一年生
- 沢村留美 千歳の姉
- ミリー 交換留学生 渡辺家に下宿
- 松井須磨 停学6年目の留年生 甲府の旧家にルーツがある
- 瀬戸内美春 生徒会副会長
- ミッキー・ドナルド サンフランシスコの高校生
- シンディ― サンフランシスコの高校生
- 生徒たち セーヤン(情報部) トラヤン 生徒会長 谷口 織田信中 伊藤香里菜
- 先生たち 姫ちゃん 八重桜(敷島) 松平(生徒会顧問) 朝倉美乃梨(須磨の元同級生) 大久保(生指部長)
- 惣堀商店街 ハイス薬局(ハゲの店主と女房のエリヨ) ケメコ(そうほり屋の娘