ロイス ジャズ タンノイ

タンノイによるホイジンガ的ジャズの考察でございます。

春宵の客

2013年05月18日 | 巡礼者の記帳
夜の母屋の電話が未知の韻律の声を伝え、会ってみようと思った。
では、これから店を開けましょう。
まもなく登場した人は、ウサギの印の小さな菓子箱を当方に差し出すと、待ちかねたようにパイプタバコを喫しはじめたが、あるいは当方がパソコンでゲームを為ながら考え事するように、音楽の合間にパイプの紫煙は似合っている。
ビールが良ければ差し上げましょうかと言うと、もう一方の、テレビで見る時事コメンティーターに良く似た人物が「いや、酔うと河内弁が現れますから」と固辞した。
その男性は、ベルリン・フィルのベートーヴェンが鳴るとすかさず「第九の4楽章です」とパイプの御仁にささやいて、
「カラヤンは第九を3回録音しているが」と応じている言葉は大きな音のうねりにかき消された。
「この♯7は、いつ頃に制作のものでしょう」
「電源は、どのように」
パイプの御仁はゆったりと、あまり喜楽を表情にみせず、ご自宅のオーディオ機器についてわずかに説明のある型番も、当方には異星人のものである。
「聴いているのは黒いビニールのレコードですが、光学装置によって左右の溝をひろっています」
これはいかん。ますます、その鳴っている音響がすんなりとこなかった。
だが、良い音でもいずれにしても、我々はそれを季節の収穫として並んだ自分の抽出しのいずれかに仕舞っていくのがオーディオの道草である。
春宵、紫アゲハかシジミ蝶の飛翔かを楽しんでパイプを燻らす旅の空があった。
「お近くを通過のさい、お立ち寄りください」
御仁は帰り際に親切に言葉を残してくださった。




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