ロイス ジャズ タンノイ

タンノイによるホイジンガ的ジャズの考察でございます。

ヴィレッジ・ヴァンガードのビル・エヴァンス

2012年02月24日 | 巡礼者の記帳
ジョン・F・ケネディが大統領になった1961年、6月のニューヨークは、ちょうど盛岡の緯度にあり湿度も上がり暖かであった。
ライブハウスのヴィレッジ・ヴァンガードでエヴァンス連続ライブが行われた最終日、記念すべき25日の日曜日に居合わせドリンクを飲んだり笑ったりした人々には、たまさかワッハッハの笑い声までリバーサイド・レコードに録音されて世界中で楽しまれ、おそらく永遠に鑑賞されることになるのであろう。
ラファロの演奏の目立ったナンバーの『サンデイ・アット・ヴィレッジ・ヴァンガード』と何度か聴き比べると、エヴァンスの曲の流れでカッティングされたこの『ワルツ・フォー・デビィ』の選曲に、プロデューサー、オリン・キープニュース氏の慧眼を感ずる。
『ワルツ・フォー・デビィ』というLPは、A面B面それぞれ三曲の組み合わせが、足すも引くもいらない五言絶句になっているのではないか。

春眠 暁を覚えず 処処 啼鳥を聞く 

非日常の仙境を音の流れる、この盤の最小構成はおもしろい。
ヴィレッジ・ヴァンガードの日曜日は、ほかにも繰り返し演奏された各バージョンのあることは誰も知っているが、すべてをコレクションすることも可能であり、CD盤のほうが数曲多いと慶祝に思うもよし。
さて、この二月に寒さをものともせず山形市からの途中Royceに立ち寄った青年は、ヴィレッジ・ヴァンガード連続ライブの余韻を、冷たいコンクリート壁を背に醸しているタンノイを見据えながら、レコード盤とジャケットをためつすがめつ手から離さず、盤まで引き出してしばらく居たが、
「これはオリジナルですか」
エヴァンス/ラファロ/ポール・モチアンLP録音をタンノイで聴いて、これまでとイメージが違ったらしく、むかし盛岡の学校にかよっていたころ周囲のジャズ喫茶にかよってめざめ、
「おそらく一生、自分の中心にジャズは在るのでは」
などと、とんでもないことをあっさり言っている。
まえにも話したが、あるとき訪問したお宅のソファのわきに「五味康祐-西方の音」が落ちていて、テーブルの上に『ワルツ・フォー・デビィ』の青盤があった。
小鉄MONOカッティング盤をそこで初めて聴いて思ったが、装置の違いなのかおそるべき音がして、さらにおなじUS青盤は五万両するという。
『ワルツ・フォー・デビィ』もまだまだ新しい局面がありそうだ。
むかしROYCEに遊びに来た御仁が申されるには、以前ニューヨークに行ったときのこと、気を利かせた現地の友人がヴァンガードのライヴに連れていってくださったそうであるが、
「ジャズに関心がなかったので、チョッキを着た彼のこともピンとこなかった」
どうやらエヴァンスのライブも、ほかに関心が向いていたのでは、しかたがない。






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エヴァンスの『ダニー・ボーイ』

2012年02月22日 | 巡礼者の記帳
これ以下はないくらいベースもドラムスも控えめに黙って、この曲の始めからおわりまでエヴァンスの静かな旋律は奏されている。
シェリーマンやM・パドウイックではない面々とでも、はたしてこの曲の演奏は、どうなのか。
このトリオのアイルランド民謡に、巨大な期待感が星雲の中に空いた穴のように残って、演奏は終わった。
おおげさに願望を言うと、キープニュース氏ではないが休憩時間にそっと近寄って、ベースもドラムスもこの曲にもうちょっと音符の多いところを女王は聴きたがっている、とか言って、むりやりお願いしたい。
レコードでは次の曲にうつりシェリーマンらしい切れ味鋭いブラシの音になるが、『ダニー・ボーイ』では無理かと、旋律の構成を思い出してみる。
もう一度聴いてみると、エヴァンスのピアノがタンノイの空間に大きな音像で叙情的に響いて、M・パドウイックが次の間にズイーンと低く唸ると、シェリーマンが小さく固いカキーンという音を鳴らす。やっぱりこれでよいのか、テーマはエムパシーである。
お客に、カフェオレのペットボトルをいただいた。




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『サンバレロ』のマリア・トレード

2012年02月19日 | 巡礼者の記帳
『サンバレロ』はしみじみとタンノイから響いている。
ルイス・ボンファのギターに、予想外のヴォカリーズのアンニュイな低いサウンドが流れ、ゲッツのサクスとからんで黄金比を構成し、つい耳を取られるそれはマリア・トレードが唄っている。
そのとき、Royceに気立て良ろしい雰囲気の女性が登場した。
当方は、きょうは極寒でもあり喫茶を婉曲に断ると、続いて入ってきた男性があきらめて車に戻った。
さて女性は、よほどのタンノイ・フアンであるのか、寒くてもかまわないと申されている。
ドアのロックをはずし、次の間にお通しした。
「そのツートラ、サンパチのオープンデッキを聴いてみたい」
好奇心のご要望はもっともである。
何曲かレコードを替えると、すこしもさわがず珈琲を喫してタンノイに耳を預け、お二人はなつかしい日々の音楽生活を回想しておられる。
おや、こんどはそこに巨大なタイヤを履いたゲレンデ・バーゲンが停車し、みるとパラゴンの御仁である。
お話を伺っていると、どうやらボザークのコンサートグランドB-411システムを脳裏にうかべて話しておられるらしく、そぞろで楽しげな様子が地上1メートルほどに浮いている。
本腰で搬入を話されており、当方もぜひいちど最高に調整された大型ボザークの音を聴いてみたいものであるが、御仁の館は343街道ではなかったか。
343街道に、もうしばらくすると太宰府天満宮から運ばれた梅の花の咲くころだ。





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国道343号線の怪

2012年02月12日 | 徒然の記
一関から高田、大船渡に走る道程について、おそらく誰でも二つのことを警戒している。
ひとつは、いうまでもなく雪道に乱高下する坂道で、御椀のフチをなめているような凍ったカーブを走るとき、ラズモフスキーの演奏にみる超絶の緊張感さえ感じるのは、当方ばかりではない。
このとき非常に役にたつj=1/u=Pというギヤの減速比であるが、エンジンブレーキを有効に活用すると、なんなく車体の安定を保ったままコーナリングが可能であることを試してみた。
ふと左右の白い絶景に見とれていると、動物がいきなり薮から飛び出し、先日の場合は左車輪の前を数メートルも競争して走っていたのには呆れた。
これがF-1カーであったら、疾風の輪禍にそのものはまみれているところである。
まったくもって、お役所の道のりかたずけ班のお手をわずらわせるところ。
この343道の途中にいくつか待避所があって、あるときは車が停まっており、2台がハの字に構えていたりするのを見ると、左右どちら方向でも瞬時に出動できるように居るのかもしれず、港の見える丘公園と考え違いしてお仕事のさまたげになってはならない。
昨日の夜、竹駒橋にさしかかってとうとうパネルに黄色の給油ランプが点灯したのを見、ギョッとしたが、購入して初の車のみせた機能である。
それからの道のりは、夜分の給油所を探しながらひた走って、大船渡の近道はアップダウンに燃料を消費するため、高田の無人の夜道を抜け『三陸道』を疾駆して、とうとう最後の一滴で大船渡の出口の給油所に着いていた。
ガソリンタンクの底には水が沈殿しているというが、その水割りチェイサーでさいごは走っていたのかもしれない大失敗であった。
343号線の途中に、夜間給油所がいつか完成することを期待しつつ、心得の3となった。
それにしても、途中の小川の橋に大きな説明板があって、書かれてある昔話を停めた車内からしばらく読みふけっていると、傍を通った車がピッと鳴らしたのは、なんなのか。

☆F-1カーが無理であれば、1台4億円のブガッティで走ると風景はこのように。




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弦楽四重奏曲9番

2012年02月11日 | レコードのお話
九州の南小倉の、とある著名な院長殿からまいとし年賀状をいただく。
当方が、正月に限って母屋のポストに足早に駆けつけるのは、その賀状を家族の眼から隠すためであると、思われているふしがある。
当方は、しばらくどなたにも年賀状を書いたことが無い。にもかかわらず、南小倉の賀状は届く。
その図柄にわけあって、秘密クラブの趣味の案内状のごとく一等抜きん出ていること『ラズモフスキー第三番』のごとくであった。
なにかこの件にお返しできないものか、ひそかに思案し、それなりに苦心をみせている当方の掲載する歌姫のジャケットも限界かもしれない。
とても、南小倉の御仁の賀状には及ばないが、減七の和音の強奏に始まる弦楽四重奏曲を聴いていると考えることが有る。
タンノイ装置が、音楽愛好家に好まれるのは、ともするときわどいヴァイオリンという楽器の、真実の響きを極めるのは、タンノイスピーカーの音響が一番近いと、多くの愛好家は察知していたのではなかろうか。
たんじゅんにそれらしくうっとり聴かせる優れた装置は世にいくらでもあるが、峻厳に究極で至高のヴァイオリン四重奏曲を空間に創造するのは、やはりタンノイを鳴らしたときであろうと、多くの人々がそこに隠されている謎に挑戦し、アンプやカートリッジを吟味して攻防をくりかえし半世紀である。
きょうは、はたしてどうかなとブダペストSQのレコードをターンテーブルに乗せてみた。








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立春、夜明けのマイルス

2012年02月05日 | 旅の話
熟睡している丑三つの刻に、親に命じられ遊びに行っていた家で、
「さあ、起きて」と起こされた。
中学生であったかの当方が眠い目をこすると、大きな男がゴム製のダブダブの服をよこして着せてくれたが、ゴム合羽が歩いているようにして夜道を港に降りて行った。
五隻ほどの船が、出港の準備で、薄暗い海にざわついていた。
はじめてこちらに漁を経験させる船主は、波を分ける舳先にすっくと立って、遠く沖を見ている。
やがて船達は、くろい浮き玉の浮かんでいる仕掛網の周囲を取り囲むと、十数人がタイミングをそろえて声を発し網を手繰りあげはじめたが、最初に見えてきたのは、魚の背を別けて揃って網の中を泳ぐイカの群れである。
最近、三百キロの黒マグロが網にかかったニュースをテレビで見て、ふと遠い記憶を思い起こした。
最近のモーゼルワインが、カビネットでも非常に甘さと酸味のコントラストやコクが良く、少々のつもりでオルトフォンの針圧も指先に軽い。
漁の出港にも、雪の夜道のドライブにも似合って、タンノイのマイルスは鳴る。





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スペンドールBC-Ⅱ

2012年02月01日 | 徒然の記
タンノイと同じ英国で造られたスペンドールBC-Ⅱは、タンノイとまた違った繊細で香気の音を聴かせている。
昔、等々力のK氏と、世田谷太子堂のN氏の部屋で聴いて、どちらも非常に興味深い音がした。
タンノイの大型装置とは輪郭が違って、ものたりないと思えばⅢ型にするのかもしれないが、それはエンクロージャを大きくしウーハーユニットを加えたもので、やはりⅡ型の音像の延長であり、コントラストが期待の骨太にはならない。
だが、スペンドールの音には、弦のユニゾンやジャズの静かな立体感にゾクッとさせられる。
たまにタンノイを休ませて、隣室でコーヒーでも喫しながらスペンドールを聴いていると、つい聴耳をたてていたりする。
サランネットをつけて聴くと、スペンドールは一層芳醇に鳴っているが、クオードとマークレビンソンアンプで鳴らせば、一瞬心臓の停まるようなよい音であった。
茶室の道具立てを、昔の人もひねってみたりするのは、降り積もった雪かきのあとの世の習いである。
古河から、ヤマハ1000Mをトライオードで鳴らす御仁が登場して、ダイナコのスピーカーを導入されたところ、右のウーハーユニットがどうも動いていないと申されている。
すこしも騒がず鳴らしている情景を、当方は、楽しく想像した。






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