ロイス ジャズ タンノイ

タンノイによるホイジンガ的ジャズの考察でございます。

リタ・ライス

2008年04月19日 | レコードのお話
フレミングの著作『007』のフアンにジョン・F・ケネディがいて、その本はホワイトハウス執務室にも揃っていた。
いまは『ゴルゴ13』かと思う、このシリーズに活躍するデューク・トオゴオ(東郷)なる人物はなかなか歳を取らず、気が付けばいまではこっちが年上になってしまったから、これは相対性理論のアナかもしれない。
このトオゴオであるが、洗濯物はどうしているのだ、私生活では「クフゥ、ちくしょう、なんて人なの」などというシーンのみ散見されて、食事のシーンも本からはめったに伺えない。当方が昔、各地の味噌ラーメンの店で読ませてもらったのが、ゴルゴと週間慎重であったからなつかしい記憶である。
さきほど報告があった。「そういえば角のクリーニングさん前でみかけたの。とても元気そうだったわ」
ふーん、それで何をしていたの?「BMのトランクを開けていたところね、若々しい人ね」
トオゴオも彼も、街頭に立てば町の風景であるが、ジャズ好き達ならそこにジャズを浮かべるのは自然なことである。
ROYCEから、2、3分の場所に出現したことを知って思った、以前見かけたのは8年ほど前のことであろうか。
トオゴオのシリーズで印象に残っているのは、フルトヴェングラーの未発表ライブテープが発見されるストーリィと、ヤモリという題のもの。
1961年録音の『リタ・ライス』は、ビム・ヤーコブス(p)ケニー・クラーク(d)のコンボをバックに、読書や思考の時間になかなか重宝であった。


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タンノイ・ターンベリーの客

2008年04月12日 | 巡礼者の記帳
トランプカードにジャックという絵柄がある。
オフロードタイヤで品川ナンバーのオートバイから降り立った人物は、そのジャックの髪型の、タンノイ・ターンベリーを鳴らしておられる人である。
「途中、郡山から20分の城下町三春の滝桜を眺めてきました」と申されて、ロイヤルのまえに席をとった。
はたしてターンベリーとロイヤルで、聴こえる音楽にそれほどの差はあるのだろうか、そこを聴いてみましょうということになって、ベートーヴェンの第九シンフォニーをベルリンフィルハーモニーで聴いてみた。
第九は、いきなりサヤを払った伊勢村正の白刃のごとく迫って、次第にコントラバスからチェロからファゴットからあらゆる楽器の総奏が壁一面の大波となり、これまで世に出たすべての交響曲の最新最大の総決算がこれである、といっているかのような独特のサウンドで、オーケストラのあらんかぎりの技倆をしなやかに披瀝してみせる。
当然のごとく、スピーカー装置の持てる力はここで明らかにされてしまうが、高音弦の強靭さと柔らかさ、低音弦のブルブル、ドドドドと水牛や象が100頭くらいで走り回るような地響きのする錯覚を覚えさせる再生装置であってもらいたい、と願うのは早く言えば欲である。
ジャック氏は、家族に遠慮というものがあります、と笑みをうかべると、堪能しましたと言ってくださった。
ジャズを聴く段になってジャック氏は話す。
「ビル・エヴァンスのワルツ・フォー・デビィはモニカ・ゼタールンドのディスクしか持っていません」
エエッ、聴くのは6割がたクラシックであると言いつつ、スウェーデンの歌手ゼタールンドとビル・エヴァンスの共演盤を所有の只一枚という輩は、なにか刀の鍔から手裏剣を抜いてきたような気分で怪しい。
タンノイを選択した心得に、刀を少し抜いてみせた手強い客であったのか。




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宿場町

2008年04月04日 | 徒然の記
さきほど通った道の傍らに、芭蕉行脚の路と書かれた碑柱があるのを見たが、切れぎれの旧街道に、何者かが、旅人の記憶を残そうとしている。
旅人を音楽に置き換えるとタンノイはさしずめ宿場町にあたるだろうか。
さて、宿場町に顔を出して、旅の人の偉業を拝聴しようとする。
外出から戻ると、季節のはがきが届いていた。


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ヴィレッジ・ヴァンガードから戻った謎のA氏

2008年04月01日 | 巡礼者の記帳
謎のA氏はテーブルの反対側で、老舗のうどん丼を箸に抓みながら言った。
「このたびは壁の傍のほうに席をとって待ちかまえていましたが、背後をズズーゥとついにあの地下鉄の通る音がしました。おおっ、聴こえるじゃない!...たしかにヴァンガードには、地下鉄の凄い音が走っていましたね」
いたずらそうな眼でどんぶりをちょっと寄せ、テーブルに指先で、ニューヨークに再び訪問したヴィレッジ・ヴァンガードの見取り図まで描いて、当方に帰国の感想を申されている。
A氏は、ROYCEで4年ほどまえであったか、タンノイ・ロイヤルの描く『ワルツ・フォー・デビィ』のエヴァンス・トリオを聴いたとき、ヴィレッジ・ヴァンガードのライブ演奏の背後にズズズーと地下鉄の通過音のするニューヨークのかおりを耳にすると、何喰わぬ顔でいながら、何事かを決心されたらしい。
それはいまにして漠然と気のついたことであるが、おりにふれ現れたA氏のお話をつなぐと、まず数寄屋造りの自宅を新築し、そこにオーディオ・ルームをこしらえ、JBLの大型スピーカーを設置した。次に、ROYCEの300Bと845アンプをしばらく観察されていたが、個性的なメーカー、トライオードの特注品300Bアンプと巨大な赤いトランスのついた845アンプを何喰わぬ顔で配備しておいて再びROYCEに現れ、「わたしの管球ドライブJBLの地下鉄の通過音はこうなっていました」とさりげなく、ヴィレッジ・ヴァンガードの実況録音盤の両面に聞こえてくる地下鉄通過音を何者かに計測させたタイム一覧のメモを、当方に差し出したのである。
一瞥したそのメモが、当方のロイヤルで聴こえる回数より多かったことに、まさか気分を害したわけでもないが、「ヴァンガードに地下鉄は走っていない、と申される客も居ます」と、うるわしいジャズ演奏の本質ではない、ささいな現象を自戒し、それ以上の話はおしまいにしようとした。
しかし考えてみれば、ロイヤルの奏するレコードの五か所くらいに聴こえる地下鉄の音である、あの「ミシミシ、ズズー」という音が、A氏の宅では10箇所くらいにきこえているチェックの行数で、ロイスをうわまわることすこぶるのヴィレッジ・ヴァンガードに仕上がった結果を、遠回しであるが具体的にA氏は申されたのではないのか。
そしてそのことは、オーディオの再生装置の完成度で多くの人がチマナコになっている重低音の再現の重要性にA氏も挑戦し、ヴァンガードの地下鉄の音という、ジャズシーンでもっとも芸術的な尺度に照準を合わせて、管球アンプの瑞々しさをJBLに加えた装置の完成度を表してきたことに遅まきながら気が付いた。
当方は、A氏が指先でなぞったそのヴィレッジ・ヴァンガードの見取り図に、ロイヤルの記憶の『ワルツ・フォー・デビィ』を重ねつつ、老舗のエビ天を割りばしの先につまんで思った。
一見くだけていながら、どこまでも真面目な人物であるA氏の、その意志にあらためて驚く。
ROYCEの丑寅の壁には寺島先生のサインがあって、その側に或る時A氏のサインはあった。



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