ロイス ジャズ タンノイ

タンノイによるホイジンガ的ジャズの考察でございます。

ショパンの6番

2010年05月28日 | 巡礼者の記帳
分類学(Taxonomy)でふと気が付くのは、誰も不思議に思わない反則の特性分布を示している作曲家の分野。
古典に名を残す作曲は、なぜかクラシックもジャズも、大部分を男がやっている。
これを数式で『♂>♀』となるのかな。
優れたピアノ曲を作ったショパンはポーランドの生まれである。
タンノイから聴こえる『ポロネーズ』に耳を傾けていると、軽く聴き流れない何かがあって、当方のあらかじめ予期していたメロディーが一瞬のあいだストップモーションしたり、強い打鍵を予想しているとふっと力が抜かれて鳴ったり、微塵のゆらぎもなく機械が石段を下りてくるように弾かれる、ピアノ音楽の地平を見せたショパンを表現していたが。
そのショパンを聴かせるピアニストは『E・ギレリス』であった。
ショパンのことについて思い出すと、スペインのマジョルカ島でジョルジュ・サンドと暮らした彼等のベル・エポックが話題となる、1837から9年の同居のあいだ『24の前奏曲集』『幻想曲』『バラード第4番』『英雄ポロネーズ』『舟歌』『幻想ポロネーズ』『雨垂れ』など数多くの名曲を残しているのがすばらしい。
このことは、作曲のエネルギーが何によってもたらされたか、当方のうわべの分類学では測り難いところであった。
そのときROYCEに、ちょっと気恥ずかしそうに女性が、ヤマトタケルのような男性と入ってきた。
観光パンフレットによって訪ねてきた客人であるが、最近当方が微熱中の小型装置の音楽再生について成果を開陳したところ、ムムムッとスイングのあった小型音楽の景色。
ショパンがもしこれを聴けば、『美しい花束の中に大砲が隠されている』とシューマンの評したショパンが鳴っている、東洋の小箱を笑ってくれたのか。
五月のまだ肌寒い午後、熊本近辺の現在納豆工場が自分の小学校であったと申される二進法の技術者が、学会のついでに立ち寄って『八女茶』を御下賜くださった。






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In The Wee Small Hours

2010年05月16日 | 巡礼者の記帳
心のピアノは、用事のあるときに早く、おなかのすいているときは散れ、疲れているときはゆっくりと鳴る。
OSCARピーターソンは、シカゴ、ロンドン・ハウスの1960年の演奏で、これをチョーゆっくりの超絶技巧演奏でみせた。
シナトラがいつもステージで唄っていた『In The Wee Small Hours 』を、ピーターソンが奏っているところを聴いて感心していると、途中からRAY BROWNのベースがブン!、ブン!と例の青鬼の鉄のハンマーを鳴らし中央いっぱいに威風をみなぎらせているが、なぜかそれなのにしみじみとした音が良いのがバックロードホーンである。
ロン・カーターにも、すこしこの部分が残してあれば聴いてみたい曲がある、などと考えているとテーブルの食器の音に混じってカウンターの左奥で電話のベルがゆっくり三度鳴って、六十年代のカポネ氏にでもコールするのか、ベルの音が端麗で良い。
ED THIGPENのドラムスは静かに落ち穂を拾っているが、まれに、このトリオの絶妙のシーンがあって、そのような演奏を探しているといつか盤も増えていった。
仙台からお見えになった二人連れのお客にお聞きした。
――その部屋の広さでは、JBLの大型装置でしょう?
「いえ、それほどのものではありません。娘のグランド・ピアノに場所を取られて・・・」
消えるような小さな声であったが、たしかにグランド・ピアノと聞いたのである。
奥方は、小さく笑っていた。





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井の頭公園 その2

2010年05月13日 | 諸子百家
新入社員講習でカンズメになっていた最後の日、それは悪夢であった。
打ち上げに、81人が打揃って城ヶ島にピクニックの解放日で、我々は崖の上から蒼く広がる雄大な海の景色を満喫し、缶コヒーなどを飲んでいた。
4人の女性社員がたまたま通りかかった当方に、「ボートを借りたから奴隷のようにボートを漕ぎなさい」と言って笑った。
ボートなど、見たことも乗ったこともない当方であったが、はいはい、と請け負った。
岩場の湾に浮かんでいるはずが、いつしかボートは海流に流されて沖に。
気が付いたときには、深い色の大波の砕けるゴツゴツした岸壁が目前に迫って危機一髪、女性達は全員真っ青になったのが状況を証明していた。
こうしてタンノイを聴いていると、あれを幸運と紙一重とはなかなか思えないが。
ひそかに反省した当方は、近所の碑文谷公園のボート場に日参して人並みの腕まえを模索して、井の頭公園に遠征したときもすぐ櫂を握ってみた。
井の頭公園へは、寮の一つ隣の部屋の男が「絵を描きに行こう」と誘うので初めて行ったが、『Megu』のことは、そのときまだ知らなかった。
その同僚は、本格的にカンバスを乗せた三脚を立て油彩の筆をとった姿が極まっていて、当方もまねをして万年筆でちょろちょろ描いていると、背後にガキンチョが大勢集まって静かにほめてくれるから、都会の子の行儀の良さに驚いた。
ボートは後ろ向きで櫂を漕ぐから、海に出るときは多少練習した方がよい。
「こんどまた乗せて」と女性たちはいってくれたが、もうすこしであやうく海中でハーレム・ノクターンだ。

国語の先生という御仁が珈琲を飲みたいと遊びに寄って、ピアノ・トリオを聴きつつ壁の漢詩をながめていった。
ガーランドがもとボクサーであることを知っていたので、たいていのことは心得ているのかもしれない。

※ イラストは、昭和40年代の井の頭公園ボート場



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初めての

2010年05月07日 | 巡礼者の記帳
その家の二階の勉強部屋に、お手伝いさんが運んできた橙色のチーズが、紅茶と皿の上に二切れ載っている。
戦後そのころ、親も口にしたことのないチーズというものを眼の前にして、小学生の当方がかまぼこ形に切った一枚をモグモグするのを見ていた家の子は「どう?」と言った。
羊羹の味を期待していた子供にチーズは不味い。
皿にもどされたそれを摘んで、彼は明るく開いたガラス窓のむこうにゆっくり投げた。
チーズは橙色のUFOのように浮かんで、外の庭に飛んでいった。
そのチーズがいまでは、味も色も絶対的な存在にしている記憶が妙だ。
新幹線内のカタログで見たという客が、ジャズを聴きたいと雨の外から入ってきたが、盛岡から転勤のひとである。
CDを500枚ほど蒐集めておられる好奇心旺盛の若い人は、水沢のパラゴンの音楽のことなど、各地の印象を慎重にお話しくださった。
―― あなたの部屋には、大型装置が備わってあるのですか。
「いや、これからもそれはどうかわかりませんがマイルスやハンク・モブレーなどがよいです」
コルトレーンやホーキンスを過ぎて、ちょうど快い音で鳴っている、休日を装飾しているジャズの空気を考えた。
はじめて口にしたチーズの味のようなジャズを、記憶に誰も持っている。




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三河湾の空母

2010年05月01日 | 巡礼者の記帳
ヴァイオリンはヴァイオリンに生まれない。ソリストによってヴァイオリンになるのだ。
人は感心して、ではそれを聴いてみようと思うわけである。
昔のあるとき、江藤俊哉とN響のコンチェルトをホールで聴くことが出来た。
江藤は強力なオーケストラを背後にしたカデンツァに勢い余って、弓の糸が何本か切れヒラヒラと垂れ下がったものをそのままに挽いていたが、オーケストラにパートをつないだ後で、どうだとばかり悠々と引きちぎった。
かれはあの頑丈な体で、息を止めて演奏しているので、パートの繋ぎにふたつの鼻の穴から吹き出される空気がびゅーびゅーと激しく音を立てて排気され、それも音楽である。
そのころ江藤が鳴らしていたヴァイオリンは『グヮルネリ』であったのか、あとで『ストラディヴァリ』を使用したのかもしれない。当方にそれを聴きくらべるデータの無いのが残念だ。
タンノイも、鳴らす人によって、その姿を変えておそらく鳴っているが、ジャズのシーンとは換えて、弦楽は真空管をミュラードにしようと思う。
ミュラードで鳴るタンノイは、また別の楽器のようにすばらしい。
連休の初日に三河から登場した客は、当方の期待にこたえて、ご自宅のフル装備を写真にして持ってきてくださった。
おそらく、この全天候型空母のような装置を聴かれた人は少なかろうが、自作というところがあなどれない。
先日は安房の國館山の直熱管博士のところに遠征されたそうであるが、いまROYCEのソフアのかたわらに控える人も、一緒に日本各地を巡行されているのだろうか。
――各地とくらべて、川向うの昨日いかがでしたか。
「いや、それが、ドーンと直進してきた音がこちらの胸にあたって、体を中まで揺さぶってくるのが本当に強烈でした。さすがです」
彼はほぼ中央の席で聴いていると、そこで働いていた若い女性がそばまで来て着席し、しばらく音楽に合わせてスイングしていた、と言った。
相手がその状態であったので、何ヘルツで切って繋いでいる音なのか聞きそびれてしまったそうである。
ヴァイオリンもラの音が440ヘルツ調弦だが、ベルリンフィルは444ヘルツではないかと言われていたのを思い出した。





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