ロイス ジャズ タンノイ

タンノイによるホイジンガ的ジャズの考察でございます。

タンノイ・ケンジントンの客

2008年03月27日 | 巡礼者の記帳
奥州街道を一関から北に30キロいくと、そこから奥六郡の城郭都市の広がるところである。
胆沢川が北上川と合流するところに古代の胆沢城跡はあって、この郭域に住まわれる客人は、あるときタンノイのうわさを耳にし、街道の雪も解け蕗の薹が芽を出した頃ROYCEに登場された。
フロント・ショートホーンとバックロード・ホーンで組まれた奇怪な箱のロイヤルとは如何なる音か、平面バッフルにバスレフレックスのエンクロージャーとの違いとは?半信半疑でながめていた客人は、さいしょから音像が壁のようにあふれてくるタンノイを聴いて、そうとう戸惑っておられたが、大小3セット並んでいる、そのスピーカー全部が鳴っているのかと問われている。
ご自宅のオーディオ・ルームで鳴るタンノイ・ケンジントンと比べ、いささか音の波が多すぎたゆえのご質問であるが、タンノイの歴史の始めの頃は、もっと効率を追求した大型の箱もあったようで、輸出のために運送の制約もあって現在の大きさにセーブされているのではないか。
「音場と迫力が、いささか違いますね」と、ややあきれておられたが、お話を伺うと、アルテック608型も所有され、トライオードのアンプで鳴らしていると申される器機の選択が個性的だ。
「それはわたしも、ためしました」と200V給電はもとより、コネクトケーブルなど、たいがいのことは試されて、さらなる飛躍を模索されている。
シングルアンプとプッシュプルの違いとか、こればかりは聴いてみないと結論は出ないので、禅問答はヒントの応酬である。
サイドウイングの効果をねらったROYCEのセッテイングから、何事か試された客人は翌日電話をよこしてくださった。
「音像がまったく変わって、このほうが好みです」
フォー・ビート・ジャズに一瞬戻って、技倆のたけを聴かせた『VSOP』の5人は凄い。


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銀座からの客

2008年03月21日 | 巡礼者の記帳
「どうも」と、静かに笑顔を浮かべたその御仁とは、以前に会った記憶がある。
名古屋にご自宅があって東京に単身赴任中の、もの静かな人であるが、日本の各地に出張しては時間を縫って好きなジャズと酒を楽しまれ、ROYCEにも千社札を貼った人である。
名刺には、本社中央区銀座と書かれてあった。
今回は、ついに駅前の『T』に潜入できて至極満足のご様子で、アルテック1台で聴いたジャズが、格別のご馳走であったようである。
マスターとのやりとりが目に浮かび、佐久間アンプのアルテック・サウンドが脳裡によみがえった。
「3年ほど前に、自宅に12畳のオーディオ・ルームを造りました」
響を工夫された板壁の部屋の中央に、デンと鎮座しているのはどうやらJBLのようであるが。
だんだん音も部屋になじんで、満足できるようになりました、と言葉を選んでゆっくりつなぐと美味しそうにワインを口に運んだ。
「そうだ、これを、めずらしい酒を蒐めている新橋のマスターに紹介しておきましょう」と申されてウイスキーの棚に携帯のカメラを向けるとパチリと撮った。
有機的に人とモノを結合させる、どこか科学者のような風貌のお客は、仕事の合間に郷里の名古屋に戻られて黄金の茶室でジャズの時間を堪能されている。そのとき、もう一方の耳に、全国各地の歌枕のジャズが鳴っているのかもしれない。
夜の銀座のことを聞いて1枚の情景を思い出したのは、オリンピックの翌年に、はじめて手にしたカメラで撮影した三愛ビルの写真であった。


☆ペンタックスSV





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トライアンフの客

2008年03月15日 | 巡礼者の記帳
タンノイの音であればよろしいと、耳はケース・オフィサーのつとめをサボろうとする。
この数日、パワーアンプの不調に難儀していたとき、風を切って登場されたのはフルフェイスのヘルメットをはずした「トライアンフ」の客である。
アンプの制作になみならぬ関心をよせてやまないこの御仁について、以前アルテック・サウンドを聴いていると記憶していたが、可聴帯域をあますところなく、どのバランスで味わうのが最も気分がよいのか、我々の真理の探求はそこにかかっていた。
そのことを象徴的にいうと、名刺のかわりに、どのスピーカーを鳴らしているかをいえば、サバランではないけれど、人のおおよその音響世界は推し計れよう。
すると人は、次なる一手に角道を開けて、知らない音の世界を開く妙手を打つのだろうか。名所、旧跡、歌枕の旅に出る。
トライアンフに跨って現れた客は、「アラビアのロレンス」が英国で最後に乗っていたオートバイのことを知っていた。
それはモーターバイクのロールスロイスと言われる「ブラフ・シューペリア」であった。
ロレンスの映画のセリフに「夢の見方は人によって違う。しかし白昼夢を見る男は用心だ。なぜならそれを実現しようとするから」といわせていたが、オーディオやジャズの道にこのごろ人々が大挙して現れ、いま夢を追うところを見る。
芭蕉も旅の途上でなお、夢は枯れ野をかけめぐると一筆を記したものだ。
遠ざかるトライアンフのエンジン・ブロウを聴きながら、デクスター・ゴードンのテナーサクスなどを思い浮かべたが、ひとまず珈琲でも呑みながらと椅子に戻った。


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紫波町の客

2008年03月07日 | 巡礼者の記帳
国道4号線を北に70キロ北上すると、そこに紫波町はある。
ROYCEのソフアに親子で寛ぐのはジャズを楽しんで30年と申される紫波町からのフランクな客人。
チャーリー・パーカーが好きで『いーぐる』のG氏を四谷に訪ねると、北の国から出掛けた微熱ジンジンの若者を受けとめパーカーの話をしてくださいました、と遠い昔を語る。
ところで紫波といえば、あの有名な神田明神下の茶店で八五郎と梅茶を一杯、銭形の親分の活躍を描いた野村胡堂の記念館がある。
胡堂はSP時代から『あらえびす』というペンネームで音楽評論を連載した別の顔を持ち、7千枚のレコード・コレクションはこの記念館に収蔵されて、音楽ホールに設置された『タンノイ・ロイヤル』のレコードコンサートで紹介されている。
客人は「タンノイはまだ聴いたことが有りません」などど、あらえびすホールのタンノイのことを話題にしなかったので、ROYCEのロイヤルとの音の聴き比べは、彼の心の中にだけ有るが、ジャズをロイヤルで聴くことになろうとは、30年思い及ばなかった衝撃の体験になるか?。
秘蔵のコルトレーンを1曲ロイヤルで鳴らすと「このような音色のコルトレーンを聴いたのは初めてで、驚きです」と申されて、ネコヤナギも膨らみ始めた冬の時間は過ぎていった。

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マクソニック・スピーカーの客

2008年03月01日 | 巡礼者の記帳
「わたしのスピーカーはマクソニックです」
寒気の少し緩んだ或る日、ロイスのソフアで寛ぐその客は、ジャズのフレーバーをしゃれたジャケットに包んで、メガネの奥に柔和な眼差しをのぞかせている。
するとその人物は、これまで大勢の客の話題にあった宮城県北のトラディッショナルなジャズ喫茶『J』のあるじだろうか。
マクソニック・サウンドはまぼろしの音とよばれ、タンノイと同じコアキシャル・ユニットや、ウエスターンの励磁型に範を取ったタイプなど、いまでは異色となった造形から轟いてくるジャズの音像は、多くの逸話を残してきた。
その客は、タンノイのブリテン・サウンドが聴かせる燻銀のビル・エバンスをしばらく楽しんでいたが「友人がさきごろタンノイ・ウエストミンスターを購入しました」と言いながらバッグから1枚のCDを取り出された。
早速LEVOXのトレイに載せてプレイボタンを押してみる。突然、床を踏み抜きそうな熱気の炸裂するビッグバンド・ジャズが鳴った。「ダイナミック・レンジが広いので気をつけてください」と、その客は言っている。
近隣のジャズ演奏に堪能な面々が一堂に会した或る日の熱演が、この有名なプライベート盤となったそうで、貴重な歴史のワンシーンを当方は謹んで拝聴した。
マクソニック・システムといい、割拠するジャズ・バンドといい、芭蕉もさぞかし、しのぶもちずり石の『歌枕』をそぞろ歩きに喜ぶことだろう。いつか、孤高の装置をぜひ訪ねてみたいものである。


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